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〈本の紹介〉 まごころ 哲学者と随筆家の対話

 「不良少年」であり続けることで知的練磨を重ねてきた哲学者・鶴見俊輔さん。「学歴でなく病歴」の中で思考を深めてきた随筆家・岡部伊都子さん。

 本書は只者ではない両者の幅広いテーマを俎上に乗せての本音の語り合いである。

 「生きる」とは、「戦争」とは、「学問」とは、そして「死とは」。歯に衣着せぬその語り口は、どこかユーモアがあり、ペーソスを感じさせ、しんみりとそして楽しい。

 本当の歴史を見抜き、来たるべき社会のありようを、本音で語り尽くす姿勢は、なんとも颯爽としている。

 鶴見さんは22年、東京に生まれ、小学校に通った後、病気で学べず、後に渡米、ハーバード大学で哲学を学び、京大、同志社などで教鞭を執ったが、70年、警官導入に反対して同志社大学教授を辞任した異色の経歴の持ち主。

 岡部さんは23年、大阪に生まれ、病気のため女学校を中退した。それ以来、執筆活動に入り、美術、伝統、自然、歴史など濃やかな視線を注ぎながら、戦争、朝鮮、沖縄、差別、環境問題などに鋭い発言を続けてきた当代随一の随筆家。常に口にするのは「自分は学歴はなくて、病歴がある」という言葉。その弱者の視点から強者の傲慢さを打ち砕く反骨の語り口が、多くの読者をとらえて離さない。

 そうした二人の当意即妙の対話がおもしろくないはずがない。まさしく、両者の40年来の交流の全てが凝縮された品格のある読物となっている。

 その一部を紹介してみると−。

 鶴見俊輔「成績というのはね、先生の答えを早めにパッととらえるだけのことなんで、そんなたいしたことじゃないんだよ。自己内対話で自分の見識を養った人はそれとちょっと違うんだもの。それが、自分の精神をつくっているんですね」

 「私たちができることは、私たちが故郷からむりやりに引き離してきて、その結果、日本に住んでいる在日朝鮮人の言葉に耳を傾けて、この日本で、差別しないで生きていけるという…、その中に南北統一もあるわけですから、南からも北からも来てるわけだから、そのことが朝鮮半島に影響を与えるようにという、そこから考えるほかないと思います」

 「日本語文学を、この150年のを見ると、一つ独特のもので、一つの頂上を作っていますね、在日朝鮮人は」

 岡部伊都子「朝鮮半島から強制連行されてきた男の人は、労務者で使われる。女の人は慰安婦とかいう名をつけて性奴隷にされはった。朝鮮民族で沖縄で殺された人もいっぱいいてはりますのや。どないしたら日本はまともな考えの政治をするのかな」

 「石原慎太郎は、朝鮮民族が望むから植民地にしたって言いよった。もうみんな、ほんとに心からいやだ、と」

 古今東西の歴史を縦横にめくりながら、時空を超えて「ほんものの人間、ほんとうの歴史」について語る二人の対話を年頭にぜひ読んでほしいと思う。(鶴見俊輔、岡部伊都子箸)(粉)

[朝鮮新報 2005.1.19]