「朝鮮名峰への旅」(10) ナタでブッタ切られるような苛酷な寒さ |
ペゲボンホテルより鯉明水へと向かう。2月の白頭山はさらに厳しく冷え込む。 明け方の気温がマイナス30度に下がることはあたりまえだ。日中でもホテル周辺で、気温はマイナス20度近くにしか上がらない。すべてが凍りついて、かちんかちんと音が聞こえてくる気がする。 しかし積雪はそれほど多くはない。1回に降る雪の量は数センチだ。さらさらした粉雪が、しんしんと音もなく降ってくる。白頭山中に入ると、雪は真横から吹きつけたり、下から吹き上げたりする。しかし、ペゲボンホテルのある付近は深い森林に囲まれているため、ほとんど風がなく、雪は上から降る。 日本の山と白頭山のいちばんの違いは、冬にある。日本では、西高東低の気圧配置になると大量の雪が降るが、白頭山では晴れる。日本海という暖かい海があるかないかで、雪の量がまったく異なる。しかし、大陸の冬の厳しさは、体験したものでないとわからない。北海道の山でもマイナス30度近く下がることはあるが、厳しさの中にまだやさしさや柔らかさが感じられる。白頭山の寒さには、ナタでブッタ切られるような容赦ない苛酷な寒さがある。
ペゲボンホテルを出て、車で凍てついた道を行く。森林帯の針葉樹に雪が綿帽子のようにのっている。太陽の光を浴びて、その雪がキラキラ輝く。 丘陵帯を縫って下っていくと、鯉明水の流れへと出る。夏の間、ボートの浮いていた池は今は氷の下だ。一面の雪原が広がる。 気温を見ると、日中なのにマイナス20度だ。鯉明水の滝に近づくと、水蒸気がもくもくと立ち昇っている。崖の中間部から、伏流水が吹き出してきている。伏流水は10度ぐらいの水温に保たれているが、地表に出たとたん厳しい寒さに出会って急激に冷やされ、氷の滝と化す。50〜60メートルの幅に氷瀑がかかる姿は、ほれぼれする。岩壁の間から吹き出す水は、見ているそばからシャーベット状に凍りついていく。 吹き出し口はその氷で、すぐにふさがってしまう。しばらくすると氷の薄い別の所から氷を破って水が吹き出してくる。その水がまた凍ってふさがる。吹き出し口はさらに別の所へと移っていく。 自然が造りだす動きのある見事な造形に、シャッターを切ることすら忘れて、しばし見とれる。振り仰ぐと、枯れ木にびっしり霧氷が付き、青空の中に氷の花が咲いていた。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2005.2.4] |