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絆−家族の姿[1] 不妊治療−妻に辛い思いをさせたくない

 今、日本の社会では安心して過ごせるはずの「家族」が病んでいる。年間自殺者数はこの6年間、連続3万人を超える。背景に家族の崩壊など深刻な社会の病巣があると言われる。もちろんこの日本社会で長年暮らしている以上、同胞たちとてまったくの例外ではないだろう。しかし、同胞社会にはまだまだ家族的な愛に満ちた人と人との強い「絆」が生きている。同胞社会のさまざまな「家族」の姿を通じて人と人とのつながり、そして代を継いで守り行く伝統とコミュニティーについて考えて行きたい。

黄成貴さん(左)と金永淑さん

 結婚したのは2000年4月2日。今年5年目に差しかかっている。「不妊」を初めて知ったのは1年が過ぎた頃だった。

 妊娠するための準備をしたがなかなかできず、病院へ行くと「子宮内膜症」と診断された。

 妻・金永淑さん(34)は、「正直、認めたくなかった。なぜ、私たちに子どもが出来ないのか」と、当時の心境を語った。夫・黄成貴さん(30)とは教員生活を送る中で恋愛をした。

 永淑さんの話によると、夫にこの事実を告げたとき、「彼の反応は至って冷静」だったと言う。しかし、成貴さんは、「僕だってショックは大きかった。でも、落胆すると妻を動揺させると思った。事実を受け止めなければ、と何度思ったことか。妻に辛い思いをさせない、と心に決めた」と、この日初めて胸の内を語った。

8〜9組に1組の割合

家事は一緒に

 日本では現在、8〜9組のカップルのうち1組は不妊症と言われている。不妊症の定義としては2年間妊娠できない場合とされているが、最近それは増加傾向を見せている。原因としては、環境汚染による精子の減少、女性の子宮内膜症の増加、女性の社会進出、晩婚化など様々な説がある。

 手術に対する恐怖感と信じたくない現実に打ちのめされていた永淑さん。「それまで他人事だと思っていたことが、1度に自分に襲いかかってきたような気がした」。

 気を取りなおして、手術を受け、不妊治療に取り組んだ。一時的に月経を止めて、排卵を誘発する注射を10日間打ち続けた。筋肉注射を打ち続けることによって、腕がパンパンに腫れ上がった。薬の副作用で体がほてり、精神的に不安定になることもあった。

 不妊症の治療に関しては、患者本人の生命に関わるものではないとの見方から、保険が適用されない部分が多くあるため、経済的な負担も背負わねばならない。

 「それでも子どもが欲しいと思った。愛する夫の子どもが欲しい、ただそれだけだった」(永淑さん)

「彼女と生涯を共にする」

「一生仲良く」と夫の母親が結婚祝いにプレゼントしてくれた人形

 ささいなことでイライラしたり、落ち込んだりする妻を、夫は優しく包み込んだ。「妻には僕しかいないから。彼女の苦しみを代わってあげることはできないけれど、自分にできる限りのことはしたいと思う」。

 苦手な家事を手伝い、精神的、肉体的ダメージを受けている妻をいたわり、支え続けた。長男である成貴さんに、両親からのプレッシャーはなかったのだろうか。

 「親の考えをいちいち気にしていたらしようがない。それに、いまどき子どもが出来ないから別れろなんてナンセンス。この先、子どもが出来るかどうかわからないけれど、夫婦が助け合うのは当然のこと。家事も苦手だけれど苦痛じゃない。人生を分かち合いたいと彼女と結婚したのだから」

 永淑さんは、「こんなに優しい夫を産み、育ててくれた夫の両親にとても感謝している」と話した。「夫の両親も、私の両親も、小さな孫を連れて歩く人たちの姿を羨む気持ちはあるでしょう。不妊治療をはじめて4年。一時は周りのみんなが敵のように思えたけれど、夫がいて、辛い日々を乗り越えられた。この先、どんな試練が待っていようと、夫は私にとってかけがえのない家族だと思う」。

同僚の支え

 生活費と治療費の工面のため成貴さんは会社勤めを始めたが、永淑さんは現在も岐阜初中の教壇に立ち続けている。「校長先生はじめ職場の同僚も、私たち夫婦を温かく見守ってくれている。来年度からしばらく休職して治療に専念する予定。理解ある職場の先生方に感謝している」。

 同僚の「輝美先生(初1担任)は、「金永淑先生はとても明るく、何事にも前向きで頑張り屋。職場の雰囲気を明るく、楽しくしてくれる。仕事熱心で、生徒のことには全力を尽くす永淑先生は、この1年間、不妊治療をしながら教鞭を執り、辛く苦しいこともたくさんあったと思う。どんな困難にも前向きに立ち向かう姿勢に、私自身多くのことを学んた。この頑張りは、これからの人生で必ず実を結ぶはず。また一緒に教壇に立てる日が来ることを願っている」と話した。(金潤順記者)

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[朝鮮新報 2005.2.14]