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全浩天箸 「世界遺産高句麗壁画古墳の旅」を読む

秘蔵カラー写真満載 日本の古代文化の源流 華やかに

復元された平壌の定陵寺の伽藍や回廊のカラー写真が美しい

 日本と朝鮮との関係史について多くの著書をもつ筆者が、昨年7月ユネスコ世界遺産委員会で世界遺産に登録された高句麗壁画古墳を中心にまとめた「世界初のハンドブック」。

 朝鮮民族の美意識の原点とも言われる高句麗古墳壁画のカラー写真をふんだんに紹介しながら、朝鮮と日本、東アジア全体の文化を見渡す大きな視点からの解説が楽しい。

 たとえば、徳興里古墳壁画の天井には、天ノ川と牽牛・織女や騎馬武者、やぶさめの場面も描かれている。また、水山里古墳壁画に描かれたロングスカートの女人像などの歴史のロマンあふれる写真。これらは何を意味するのだろうか。別に考古学者でなくとも、思い浮かべるのは、日本の七夕の風習や彦星と織り姫の物語、鎌倉武士の勇壮な武術競技であるやぶさめのことだろう。これらの風俗のルーツが、高句麗壁画に美しく描かれている意味は、あまりにも明白だ。日本の文化の源流はまぎれもない高句麗文化にあることを示しているのである。

 それだけではない。日本の古代文化と神話や伝説、信仰、天文、習慣、風俗すべてに関わるものが、高句麗文化に鮮やかに残されているのだ。本書はこれらを広く世界の各民族、とりわけ東アジアの視点からそれぞれの成り立ちを探り、高句麗文化へと誘ってくれる。

 著者は「万葉集」で詠まれた高句麗の衣装の美しさを紹介している。

 「韓衣君にうち着せ見まくりほり恋ひぞ暮らしし雨のふる日を」

 「韓人の衣染むといふ紫のこころに染みて思ほゆるかも」

 心に染みてくるような思いと鮮烈な情念を「韓人の衣」を染める「紫」に託して表現するほどに水山里壁画古墳をはじめとする高句麗壁画古墳に表現された色彩と衣装はすばらしい、と著者は感嘆するのだ。

高松塚壁画古墳に描かれた長いチマを着た女人像

 本書はまた、日本画家・平山郁夫氏が推薦する書でもある。平山氏は旺盛な制作活動の傍ら、世界各地の文化財、文化遺産が戦争、民族紛争や自然崩壊によって失われつつあることに心を痛め、「文化財赤十字」構想を提唱、実践してきた。これまで、実に9回訪朝して「高句麗壁画古墳群」の世界遺産登録に全面協力した。さらに、今年4月にも訪朝を予定、国際的な「高句麗壁画」シンポジウムの開催を呼びかけている。

 「長い間あこがれてきた高句麗壁画にようやくめぐりあえた時の感動は忘れない」と本紙に語った画伯をとりわけ魅了してやまないのは7世紀に描かれた江西大墓の四神図。「懸腕直筆で一気に線を引く描写力は見事。これまで見た四神図でもっとも優れている。筆力が雄渾であるにもかかわらず、優美であり、造型からしても一級品。墨色の濃淡が時代の味となっており、言い知れぬ効果を出している。…まさに東アジアの貴重な文化遺産である」と。

 華麗な壁画の世界に魅せられた巨匠の喜びが伝わってくる。

 現代史を見る視点がゆがむと過去の歴史への洞察力も鈍ってくる。そればかりか、日本では朝鮮に対する植民地支配の清算が解決しておらず、古代史においても倒錯した歴史認識が横行している。それは、古朝鮮、高句麗、渤海はじめ、隣国から受けた文化的な影響力を認めず、否定し、その記憶すら抹消しようとする動きと通じている。

 奈良県で72年に高松塚古墳、83年にキトラ壁画古墳が相次いで発見されたのは記憶に新しい。日本列島に一大古代史ブームを巻き起こした両古墳の壁画の古墳とそのパターンは、高句麗壁画の強い影響を受けたと専門家らが指摘するが、一部の歴史学者はそれを認めようとしない。

 日本古代の文化、伝説、神話、説話、信仰、天文、習慣、風俗にかかわる「高句麗壁画古墳」の世界。これらの壁画の世界こそ、日本古代史の貴重な証人であり、朝・日古代史を紐解くキーワドなのである。

 本書は歴史ファンだけではない、例えば6月のWカップサッカー観戦を予定している朝・日両国のサポーターにもぜひ、一読してほしい。高句麗の故地、平壌を旅する時、両国の平和で豊かな交流史が、生き生きと蘇るはずである。「秘蔵写真」満載と銘打つだけあって、悠久な歴史の扉へと人々を誘うすばらしいできばえ。(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.3.9]