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「朝鮮名峰への旅」(11) 雪原をヘッドランプの明かりと山スキーで進む

白頭山(間白山より)

 麓にスキーをデポし、間白山を登り始めた。この季節になると雪はほどよくしまっている。登山靴の爪先を雪に蹴り込むと、収まりよくステップを刻める。

 山麓からダケカンバの単一林となる。林の木はすべてダケカンバだ。どこまでも、どこまでも、ダケカンバが続く。日本では考えられない光景だ。行けども行けども続くダケカンバの木をぬって登っていくうちに、まるで別世界に入っていくような錯覚を覚える。

 白頭山を撮りはじめて約1年が経とうとしていた。白頭山は、長白山脈の外れにある巨大なカルデラである。富士山型の白頭山は、どこから眺めても同じように見える。あちこちからカメラを向けるが、みな似たような写真となってしまう。まことに撮りにくいカメラマン泣かせの山である。日本でならこんな時、近くの山に登る。対面から山をみると、自分だけの思いがけないアングルが見つかったりする。

 しかし、三方を大樹林に囲まれている白頭山では、対面に山がない。唯一の可能性は、はるか東方へと連なっている長白山脈だ。長白山脈の峰のひとつ間白山に登れば、異なったアングルの写真が撮れそうだ。

間白山登り

 そう思いつつ1年が過ぎた。行けなかった理由は簡単である。道がなかったからである。間白山に行くには、20キロメートル近くも延々と、ブッシュの中を歩かなければならない。雪の訪れを待つ。雪が積もれば自由に歩けるからである。雪の上ではすべてが道となる。しかし往復40キロメートルの距離を歩くには、降った雪がしっかりとしまるまで待つ必要があった。雪がしまればスキーが使える。いま条件はすべて整った。はやる気持ちを抑えつつ登っていく。

 無頭峰の宿舎を出発したのは夜明け前だった。空には月がなく、満天の星空だった。ヘッドランプの明かりを頼りに、雪原の中を山スキーで進む。夜明け前の寒さは相変わらず厳しく、マイナス20度近い。ただありがたいことに、樹林帯の中は風がない。完全装備をしていた身体は、歩むに伴い次第に汗をかく。重ね着した服を一枚脱いだ。歩き始めて2時間、ようやく空が白み始めた。さらに3時間余、やっと間白山の麓にたどり着いた。ダケカンバの林を登ると、小1時間で森林限界となる。振り返ると、登ってきたダケカンバの林が延々と広がっている。その広がりは白頭山の中腹までも続いている。林の上に、純白に輝く白頭山が抜きん出て聳え立っていた。圧倒的なスケール、雄大さだ。大陸ならではの眺めである。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2005.3.18]