top_rogo.gif (16396 bytes)

「朝鮮名峰への旅」(12) 水ぬるむ豆満江 一番早く芽吹くヤナギ

豆満江

 4月の声を聞くと、寒い北国にも遅い春がやってくる。しかし、それはほんのわずかな足音であり、注意深くあたりを眺めないと聞き逃してしまう。

 太陽は、冬至に比べればはるかに高く、日の出は早い。紫外線が強く、日焼けのシーズンでもある。雪の反射により、下からも強い光線が容赦なく当たる。顔が黒くなるだけならまだよいが、リップクリームをうっかり塗り忘れると、唇がひび割れてしまう。飲み食いするたびにひび割れた唇に強くしみて、とても不快な思いをする。

 山に積もった雪はザラメ雪となる。朝夕はカチンカチンに凍りつくが、山の中を歩くにはこの季節が最も適している。ブッシュや岩石などが雪の下に埋まり、どこへも自由に歩いていける。

ヤナギ(豆満江)

 この時期、山の上はまだまだ冬の装いであるが、山麓は劇的に変わっていく。長く伸びたツララからは水滴が垂れ落ちる。陽だまりでは雪が消えて、むき出しになった地面からは水蒸気が立ち昇りはじめる。「三寒四温」という表現がぴったりの季節である。

 朝夕の寒さは厳しいが、太陽が高く昇ると、厳冬期の厳しさが信じられないほどぽかぽかと暖かく気持ちいい。衣服を一枚脱ぎ、手袋なしで撮影にのぞめるようになる。縮こまっていた体がのびのびとしてくる。

 こんなのびやかな春の一日、厳しい白頭山中の撮影をしばし離れて、豆満江の撮影へと向かった。

 豆満江は、中国との国境を形づくっている大河であるが、その源頭は白頭山にある。白頭山の山腹から湧き出した一滴の水が大河のはじまりである。茂浦付近では、流れはまだそれほど大きくはない。しかし水量は豊かだ。冬のあいだ、川は氷の下にあったが、今は氷が割れてゆったりと流れている。たっぷり流れる川に、時おり流氷が静かに浮いて動いていく。

 4月下旬になると、雪より雨が降ることが多くなる。一雨くるごとに、木々の蕾は大きく膨らんでいく。その中でも、一番早く芽吹くのがヤナギである。白いうぶ毛に包まれた苞が割れると、黄色の花が美しく咲きはじめる。花が終わると、萌黄色の小さな葉がつきはじめ、煙った霞のように見える。

 長いこと冬の眠りについていた大地が、むくむくと蠢動しはじめ、いよいよ春の到来である。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2005.4.22]