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くらしの周辺−自分にとっての「百城」を

 故事成語に「丈夫、書万巻を擁さば、何ぞ百城に南面するを仮らんや」とある。

 高位高官という世俗的な価値よりも、趣味の世界に生きる事こそ尊いという価値観だ。

 私は大学の時にこの言葉を知り、可能な限り励んでみたのだが、4年間で千冊と少しが限界であった。

 この調子では40年かかってしまうので、社会人となった今では少し趣向を変え、九州人らしく芋焼酎を集めている。

 狭いわが家の収納の中には選りすぐりの芋焼酎たちが眠っているが、そのほとんどは近年のブームのせいで価格が高騰しているものである。探すだけで一苦労だが、元値で購入できた時の喜びは何物にも代えがたい。

 それを眺める時、あたかも自分が百城の王であるかのような錯覚に陥る。自分だけの密やかな愉しみである。

 バブル崩壊後、かまびすしく勝ち組負け組と煽られた頃もあったが、最近ではいわゆるスローライフを楽しむ人たちも増えてきているという。

 高位高官というのは所詮相対的な価値観であって、対象の数が増えれば増えるほどキリのないものだ。

 日本社会において競争は避けて通れないのが事実ではあるが、自分だけの世界、転じて絶対的な価値観を持つことも大事ではなかろうか。

 ウリハッキョに通う子どもたちこそ、むしろその生徒数の少なさを逆に生かし、自分だけの揺るぎない世界を見つけて欲しいと思う。(劉英治、会社員)

[朝鮮新報 2005.5.16]