「朝鮮名峰への旅」(13) 白頭山の一番早い春の到来は鯉明水から |
山の春は、麓から頂へと上っていく。限られた私の体験ではあるが、白頭山でもっとも早く春の到来を感ずる場所は鯉明水滝である。伏流水である鯉明水滝は年間を通していつでも10℃前後の水温を保っている。冬の間はもうもうたる水蒸気をあげて地中から温水が飛び出してくるが、外気にあうや、たちまちその水は凍てついてしまう。 この温かい水のせいで鯉明水滝周辺の雪解けは早い。強くなった春の日差しは、滝のまわりに新緑の草付きを萌えたたせる。長い冬の眠りについていた大地にいち早く現れる緑は、目にやさしく映る。滝の音も春の足音のように軽やかでやさしい。鯉明水には大きな池がある。春を待ちきれない若者たちが、池にボートを浮かべ、青春を謳歌している。
鯉明水川は白頭山の天池を源頭とするが、天池から直接流れ出るわけではない。やはり伏流水となって地下を流れていた水が山腹から湧き出したものが、川の始まりである。鯉明水滝は、この鯉明水川に流れ落ちる。鯉明水川は流れ流れて、ついには中国との国境をなす大河、鴨緑江となり、全長802キロメートルをゆったりと下って黄海へ流れ込む。 山麓から山に向かって車を走らせる。針葉樹林を抜けると、カラマツやダケカンバの林となる。芽吹きはじめたばかりの林は明るく、梢を抜けて青空が眺められる。林床にはこの季節だけ色取りを添える草花や、キバナシャクナゲの花が咲きそろい、暖かなときを迎える準備が整ったことを知らせてくれる。 ダケカンバの林に足を踏み入れる。芽吹く前のダケカンバの梢のかなたからは、強い日差しがさんさんと照りつけ、冷たい風をさえぎってくれる。暖かな日だまりが心地よい。急斜面には残雪がいろいろな模様を形づくっている。みごとに咲くキバナシャクナゲの群れは鮮やかで、目にしみこむようだ。 キバナシャクナゲの咲く樹林帯を抜けると、そこにはまだ冬枯れの景色が広がっている。しかし近づいてよく見ると、ツツジなど潅木の花芽が膨らみはじめ、今か今かと出番を待ちかまえている。 残雪を踏みしめ、さらに山を登ってカルデラの稜線に立つ。山の向こう側には、まだ凍りついた天池の姿が俯瞰できる。黄砂をふくんだ新雪が降ったばかりで、湖はまだら模様を描いている。風当たりの強いところは、氷の表面が溶けて水たまりをつくっている。天池は、まだ1メートルあまりの氷でおおわれている。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2005.6.10] |