「『アジア』の渚で」刊行記念 南朝鮮の詩人・高銀氏が講演 |
南朝鮮の民主化と祖国統一に生涯を尽くす南朝鮮「最高の詩人」・高銀氏と、先鋭的な詩作を続け、高い評価を受けている日本の詩人・吉増剛造氏の対話を収めた「『アジア』の渚で」(藤原書店)の刊行を記念して、東京都新宿区の早稲田大学大隈講堂で1日、講演と鼎談「『アジア』の渚で」(主催=早大テーマカレッジ、藤原書店など)が開催された。
イベントは、第1部で高氏が「『海の広場』と東北アジアの未来」の題で特別講演をし、続いて高氏、吉増氏、今福龍太・東京外大教授(文化人類学)による鼎談「半島と列島をつなぐ言葉の架け橋」が開催された。第2部は、早大染谷記念館で、高・吉増両氏による詩朗読の夕べが開かれた。 高氏は「行き来することで歴史がつくられる」との朝鮮のことわざを用いて、「過去の友人と、未来の友人に会いに来た」とあいさつ。海を抱いて生きる人々の「文化圏」について語った。 「韓国、中国ともこれまであまりにも陸地中心の歴史を生きてきた。日本も海に囲まれているが、いつも海を閉ざされた扉として考えたり、どこかへ行って何かを持ってくる場所とだけ考えてきた。陸地中心で、自分の城の中で篭城態勢で生きてきたがために、古代に共同体をなしていた海の現場を記憶からなくしてしまった。今、朝鮮半島だけを見ても、南には開かれた海があるけど、北は海が閉ざされている状態だと思う。これから東北アジアの人々は、自分の生の中心を海の広場に置くべきだと思う」 また、高氏は、「過去にあった、美しい海の共同体を取り戻すことが、東アジアの生存方式の基本」と考え、「これらはグローバル化、市場経済の独占を調節してくれる役割を果たし、帝国主義勢力やアメリカなどが勝手にこの空間に入ってきて物事を左右することはできない。われわれが個に帰る時、弱者になる」と語った。 高氏は講演で、歴史的な2000年6.15共同宣言発表についても触れた。
高氏は「南北首脳会談は2つの意味がある」と話し、一つは、朝鮮半島内での民族的な意味で、もう一つは世界的な意味と語った。 高氏の話によると、前者はこれ以上南北が「敵」になってはならないということ。共同宣言発表後、南北間の交流は進んでおり、京義(西海)線、東海線がつながり、南の人が平壌にも行けるようになった。6月には分断後初の南北作家による「文学フェスティバル」も開催される予定だ。また、南北共同編さんの「国語辞典」の取り組みも進められている。 後者は、南北首脳会談を反対する国が世界中にひとつもなかったということ。これは、「どんな困難があってもこれから発展させて行く」可能性を示していると高氏は強く語った。 高氏は、「ウリ」という言葉には、「私が、私自身であると同時に、すべてのものと共に生きる存在である」との意味が込められていると話し、その「ウリ」を愛する民族が、半世紀以上もの間、外部勢力によって分断の苦痛を強いられてきた。その苦しみは、分断を克服し、わが民族の力で統一を成し遂げるパワーとして、歴史的な6.15共同宣言の採択へとつながったと語った。共同宣言文の中にある「ウリ民族同士」の言葉には、朝鮮民族の「共に生きる」という力強いメッセージとともに、全世界との「共生」の意味も込められていると高氏は考える。 3氏の鼎談では、吉増氏の「南北両首脳を前にした、高銀先生だけが知っている興奮の場面を復元して欲しい」との要望にこたえて、高氏が共同宣言発表とともに開かれた晩餐会で、金正日総書記と金大中大統領の前で朗読した詩「大同江のほとりで」を全文詠み上げた。 吉増氏は、「時空を越えて、あの場面に立ち会えたことは宝だと思う。ニュース番組などで伝わってくる情報とはまったく違う、高銀先生の魂がこもった詩、祖国統一に全身を懸けた詩人の、魂の光が出てくる瞬間に接したよう」と話した。 また、今福氏は、「00年6月はブラジルのサンパウロでテレビを見ていた。その時平壌の空気を震わせていた詩が、早稲田のキャンパスで再現され、心震わすものとなった」と語った。 高氏は「韓国は特に近代史以降、日本とは違って、完成されていない歴史を生きている悲しみがある。民族が2つに分断され、まるで敵のように生きてきた。私は平壌に行った夜は眠れなかった。2つに分断され敵となった民族がこれから1つになるんだと思ったら、胸がいっぱいで。眠れずに部屋の中にあったお酒を飲みながら、朝の3時くらいに酔った状態で即興で書いた」と詩作の裏話も語った。 海をはさんでほぼ同時代を生きてきた2人の詩人の対話は、藤原書店発行の「『アジア』の渚で」に収録されている。(金潤順記者) 高銀:1933年 全羅北道生まれ。道で拾った癩病患者の詩集を読み詩人を志す。朝鮮戦争時、報復残虐を目撃、精神的混乱に。その後出家し、僧侶として活躍するが、還俗し、投獄・拷問を受けながら、民主化運動に従事。2000年6月に南北首脳会談に金大中大統領に同行、詩を朗読した。民族文学作家会議統一委員長。 吉増剛造:1939年 東京生まれ。大学在学中から旺盛な詩作活動を展開し、先鋭的な現代詩人として現在にいたるまで内外で活躍、高い評価を受ける。評論、朗読のほか、現代美術や音楽とのコラボレーション、写真などの活動も意欲的に展開している。 [朝鮮新報 2005.6.15] |