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東京・ソウルの劇団共同で徴兵被害者モデルに演劇 「歴史直視し理解を」

 2000年に東京都内の病院で孤独に死んでいった、旧日本軍徴兵被害者の朝鮮人をモデルにした演劇「沈黙の海峡」が7月16日から上演される(公演予定別掲)。日本の植民地支配と強制連行によって人生を狂わされた朝鮮人の悲劇と苦悩を通して、戦争、国家、アイデンティティーとは何かを問いかける。関釜連絡船就航から100年。「主人公が失った過去の記憶をたどることで日本と朝鮮半島の間にある歴史を直視し、相違・葛藤から共感・理解へとつなぐ新たな船出」を願った力作だ。「東京ギンガ堂」と「ソウル市劇団」が共演する。

ソウル市民も絶賛

公演のチラシ

 脚本、演出を手がけたのは演劇企画集団「東京ギンガ堂」の代表で脚本家、演出家の品川能正さん。山口県宇部市出身の品川さんは、日本と朝鮮半島の歴史に深い関心を示す。2001年には、日韓共同制作舞台「火計り〜400年の肖像」の脚本を手がけた。400年前に朝鮮人陶工たちが連行された鹿児島県東市来町美山を舞台に、古い窯元の家族を描いた作品で大きな話題を呼んだ。

 互いの交流をさらに促進するための企画を模索していた品川さんは、日本で孤独に死んでいった朝鮮人の無縁仏が国平寺(東京都小平市)に安置されている(04年6月、南朝鮮の遺族が引き取った)との朝日新聞の記事を偶然目にした。サッカーW杯の日韓共催、「韓流ブーム」の中、「やれるのでは」と作品作りに取り組んだ。

公演の一場面(ソウル公演より)

 「沈黙の海峡」は4月にソウルで21ステージ上演された。公演は20代の若者を中心に連日、大盛況で、インターネット上でも「歴史を直視した名作」などと絶賛された。

 「主人公が若いときの話。若者に見てもらいたかった」と語る品川さんの思惑が当たった。南での上演に手応えを感じた関係者、日本での上演にも熱が入る。

 両国で舞台に上がる俳優は日韓5人ずつ。同じ志を持つ者同士、酒を酌み交わすうちに親ぼくも自然と深まったという。

「事実知るきっかけに」

 主人公の先輩役の鉄野正豊さんは「一緒に練習するうちにコミュニケーションもうまくとれるようになった」と語る。出演者の江口信さん、川合将嗣さんは「主人公と先輩のやりとりが見所。歴史の事実を知るきっかけになれば」と語る。

 「沈黙の海峡」の主人公のモデルとなったのは、徴兵被害者の金百植さん。1944年に日本軍に陸軍二等兵として徴兵され、戦地で精神病を患った。以降55年間、故郷の家族に居所を知らされることもなく日本で孤独な入院生活を過ごし、過去について何も語ることなく2000年に亡くなった。

 金さんの遺骨は国平寺に安置された。住職や同胞の協力もあり04年6月、南朝鮮の遺族が引き取り、60年ぶりに故郷に帰った。

 国平寺の尹碧巖住職は「60年というのは次の世代が始まるもの。過去を清算し、北南朝鮮と日本が良い関係を築くために、歴史を見つめなければならない。日本人も自らの問題としてみてくれるとありがたい」と語る。(泰)

[朝鮮新報 2005.7.6]