〈本の紹介〉 日帝時代 わが家は |
1929年満州・奉天(現在の中国・瀋陽)で生まれた著者は、小学校卒業と同時に家族と共に日本の植民地となっていた朝鮮に移り住む。激動する歴史のなかで著者は青春時代を過ごした。
本書は、英文学者として大きな業績を残してきた著者自身の、植民地時代から朝鮮戦争期にかけての体験記であり、家族史でもある。その中心となる人物は、父である羅景錫と叔母の羅惠錫。 裕福な家に生まれ、14歳で因習的な結婚を強いられた父は、併合の年に日本へ留学した。やがて大杉栄を知り、社会主義に希望を見出す。帰国後3.1運動に参加し当局の監視下に。その後、ウラジオストク、奉天と舞台を移し、波瀾の人生を歩んだ。 父の妹である羅惠錫は、洋画家の草分けとして脚光を浴び、「新しい女」として注目を集めた。しかし、それゆえに試練の日々を送らざるをえなかった。叔母もまた文筆に優れ、時代に先んじた女性だった。 革命家を志した父、芸術に生き、朝鮮初の女性洋画家となった新女性の叔母。 朝鮮戦争の苦難、復興と民主化の長い道のりを経たいま、あらためて父の時代を振り返れば、そこに浮かぶのは日本の影である。 「不幸な事態は政治によってつくられてきた。両国間の関係を好転させるための提案はいろいろあると思うが、相手を抽象化するのを警戒するのが第一歩だろう。圧制者、侵略者、帝国主義者といったような抽象名詞で相手を見ずに、血の通った、同じ人間として認識したい」 新しい両者の関係を願って書き下ろしたある家族の体験的20世紀史。ある家族の物語を通して、朝鮮の近現代を、日本とのかかわりにふれながら描いた力作。(潤) [朝鮮新報 2005.7.11] |