top_rogo.gif (16396 bytes)

朝鮮解放60年−日朝つなぐ人々−D 東京大学教授・哲学専攻 高橋哲哉さん

 蒸し暑い夏をひときわ不快にさせる「靖国」問題。今年になって再びクローズアップされた。小泉首相が、「靖国神社」参拝の意思を表明したからである。

 これに対して、北南朝鮮、中国などアジア諸国から激しい反日運動が巻き起こった。そのタイミングにあわせるように刊行された高橋さんの「靖国問題」。

 「靖国神社」に程近いJR飯田橋駅の書店では、「靖国神社に一番近い本屋です」というコピーの垂れ幕を掲げて、人文書と新書のコーナーを独占する形で平積みされている。発売から2カ月足らずで25万部を超えるベストセラーとなっており、この問題への市民の関心の高さを伺うことができる。

 「靖国問題」は、日本が置き去りにしてきた「靖国神社」問題に徹底的な分析を加え、この問題を追及するアジアの民衆の声に真しに応えようとする高橋さんの長い間の研究と実践が凝縮された一冊。

 高橋さんが打ち出した視点は明快である。「靖国神社」は「感情の錬金術のシステム」として存在していたということ。つまり、「靖国」信仰の鼓吹者たちが、遺族感情を悲哀から幸福へ、その悲劇を栄光へと仕向けるためにあらゆるレトリックを弄する様を鮮やかに浮き彫りにしたのである。

 しかし、それ以上に侵略を受け、植民地支配という辛酸をなめた朝鮮民族にとって重大なのは、本書が「靖国」のもう一つの加害史をえぐり出している点だ。

9日、明治大学で行われた雑誌「前夜」の「徹底討論『反日』とはなにか」で講演した高橋さん(左から3人目)

 「1869年に創設された靖国神社が1874年の日本軍の台湾出兵以来のすべての戦争と植民地弾圧の日本軍戦死者を祀っていることを忘れてはならない。靖国には、江華島事件、壬午事変、甲申事変など日本の朝鮮侵略過程での日本軍の戦死者、靖国神社で『韓国暴徒鎮圧事件』『匪賊・不逞討伐』などと呼んでいる植民地鎮圧のための日本軍戦死者を含め、旧日本帝国の植民地獲得、植民地支配のための軍事行動の日本軍戦死者が合祀されている」

 高橋さんは「A級戦犯」は、日本の植民地支配責任を全く問わなかった東京裁判でのカテゴリーにすぎない、と指摘する。

 「靖国神社の歴史的責任は、そのような意味での戦争責任を超えて、日本近代の植民地主義全体の責任として問われなければならない」

 敗戦から60年。戦争犯罪人らを免罪した日本と、侵略戦争の犠牲になった朝鮮・アジアの人々のあまりに深い溝。両者の亀裂をさらに深める小泉首相の「靖国神社」公式参拝騒動は、今の日本の政治の不道徳と不正義を満天下にさらしてやまない。

 日本の右派ナショナリズムを撃つ、頼もしい論客としての高橋さんの存在感は圧倒的。どこの講演会にいっても高橋ファンの姿が目につく。

 90年代後半の日本の言論界に台頭してきた右派ナショナリズムの波に抗して、「戦後世代の日本人」の一人としての誠実な歩みが多くの人々の共感を呼んでいるのはまちがいない。

 平和で人間的なアジアを創り出そうとする韓国、中国などの研究者、若い世代、知識人の信頼を一身に集めている。(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.7.14]