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〈本の紹介〉 「時代の狂気にことばを紡ぐ」

 米国によるイラク戦争は、侵略の本性も露わに混迷を深め、世界中に戦争と紛争の火種を拡散している。

 平和憲法とともに戦後を歩んできた日本人、とくに戦争を体験した世代にとって、非戦の誓いは揺るぎない信念であったはず。ところが小泉政権登場後、「有事」「後方支援」「人道支援」と名を変えた戦争法が次々に成立し、自衛隊のイラク派兵を強行。骨抜きにされた日本国憲法・教育基本法の改正ももはや俎上に上っているありさまだ。

 この本は、立命館大学名誉教授であり、京都で文化と人権、平和を守る市民運動を担ってきた著者が、イラク戦争の欺まん、平和憲法蹂躙への憤りを日々つづり続けた2年間の、多彩な文章を編んだものである。

 著者も軍国少年の過去を持つ世代。「がまんづよく調べて言葉を書きつらねるのは大学教師の仕事の一部。しかし 9.11以後ほど激しく湧き出る情念を文字に刻んだときはない。…無法と暴力が大手を振るのに堪忍袋の緒を切らす人間がここにもいる」と、強大な軍事力、国家権力を振りかざす者たちへの断罪と抵抗の表明としてこの本を出版した。

 2003年3月19日、ブッシュ大統領が最後通告を突きつけた攻撃の前日、イラク攻撃支持を繰り返す小泉総理への抗議文から本書は始まる。

 その後2年間、イラク戦争はもちろん、「日の丸・君が代」の強制、沖縄の基地問題、労働現場での差別、改憲論議などさまざまなテーマで、たがが外れたように坂を転がり落ちていく戦後民主主義の窒息状況を、憲法の精神に照らして検証する。

 とくに民主主義の木鐸であるべきジャーナリズムの堕落ぶりには、一つひとつの記事を読み解きながら批判を加えている。今日、テレビはもはや右派勢力の広報媒体と化し、「新聞が国家権力の不法・不正を厳しく糾弾しなくなって久しい」。そんな中で政治道徳の普遍的原理を見失うことなく弱者の視点に立ち、ヒューマニズムに根ざした根源的問いかけを貫く記事にであった時、著者は喜びと安堵のエールを記者に送っている。

 抗議文、新聞への投書、論文、詩、短歌、中にはパズルのように韻を踏んではめこむ「五十音順反戦啖呵」「キョウをうたう狂歌九首」など、さまざまな表現形式による言葉の集積は、まるでさまざまな色の縦糸横糸で「平和」という美しい布を織り上げるかのようである。(須田稔著)(金蓉子、フリーライター)

[朝鮮新報 2005.7.20]