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朝鮮解放60年−日朝つなぐ人々−F 歴史家・立教大学名誉教授 山田昭次さん

 今年は関東大震災の朝鮮人虐殺から82年。山田さんはこの間の歳月を「恥の上塗り」80余年と語る。

 「今日まで日本政府から朝鮮人虐殺事件の調査結果の発表も、謝罪もなされなかった」からだけではない。

 虐殺の国家責任について山田さんは、震災時に朝鮮人が暴動を起こしたという誤認情報を流して朝鮮人虐殺を引き起こした第1の国家責任と、その責任を認めず、その責任の隠ぺいをあらゆる手段を使って行った第2の国家責任について指摘する。在日朝鮮人からの人権救済申し立てを受けた日本弁護士連合会は、03年8月25日、小泉首相に対してこの事件に関する謝罪の勧告書を出したが、首相からの回答はいまだにないと、山田さんは厳しく批判する。

 さらに、山田さんは民衆責任についても追及の手を緩めない。「埼玉県や群馬県に戦後に建立された朝鮮人犠牲者の慰霊碑があり、『ここで朝鮮人が悲惨な最期を遂げた』と書かれているが、『日本人が殺した』と記した碑文はいまだに一つもない」と憤る。

「同胞女性協議会」で徐兄弟の母、呉己順さんについて語る山田氏(04年11月)

 そして、「日本の民衆が朝鮮人虐殺の自己責任をあいまいにしたのでは、日本国家が虐殺責任を認めて謝罪するはずもない。日本の民衆は朝鮮人虐殺に加担した原因を自ら解明し、反省すると同時に、国家責任を解明することがその責任である」と断じる。

 一方、新聞の責任についても厳しい視線を向ける。

 「新聞は全般的にこの事件以前から朝鮮人の解放、独立運動に偏見をもたせる報道しかしなかったし、事件当時も政府の政策に追随するだけだった」と指摘したうえで、一連の拉致事件報道に触れて、次のように強調する。

 「朝鮮民主主義人民共和国に向けられた批判の厳しさは、同時に日本国家の朝鮮人虐殺に向けられなければならない。真相を隠ぺいし、事実を抹殺し、謝罪もしない日本のありようは、南北朝鮮や在日の朝鮮民衆の共感を得ることはできない」

 70代の半ばを迎えてもますます燃え盛る「歴史の闇」に迫る探究心。山田さんが今強い関心を寄せているのが、関東大震災時における朝鮮人女性に対する性的虐待、虐殺事件である。「言語に絶する虐殺の残酷さは、民族差別にさらに女性差別が加わって行われた結果であろう。このような日本人の行動は、朝鮮人が暴動を起こしたとデマが流されたので、自衛のために自警団を結成したといったものではなく、きわめて攻撃的である。それは民族的には支配民族としての優越心、性的には男性としての優越性に発した行動である」と糾弾してやまない。

 山田さんは日本の近代の思想史を、虐げられ差別され続けた民衆の視点から解き明かしてきた。ぼう大な編著書には、その足跡が鮮やかに刻印されている。「関東大震災時の朝鮮人虐殺」「金子文子−自己・天皇制国家・朝鮮人」「生き抜いた証にーハンセン病療養所多磨全生園朝鮮人・韓国人の記録−」などの息の長い誠実な仕事。そして、「在日韓国人政治犯」徐勝・徐俊植さん兄弟救出のために献身的に捧げた19年。他者の苦痛に寄り添う姿勢は、学問と生き方に通底する。(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.7.21]