〈本の紹介〉 日本の民族差別 人権差別撤廃条約からみた課題 |
浜松市にある宝石店の店主がブラジル人女性が入店した際、「外国人の入店は固くお断りしています」と退去を求めた。ブラジル人女性は店主を裁判所に訴えた。 裁判所は「(人種差別撤廃)条約の禁止行為に該当する人種差別行為があった場合、条約に従い、損害賠償その他の救済措置をとり得る」とし、店主に対し、150万円の損害賠償を命じた(1999.10.12静岡地裁浜松支部)。 人種差別撤廃条約と言っても何か縁遠い感じがしてなかなかピンと来ないという人も多いかと思うが、この条約に日本が批准(1995年)した以降、裁判所の判決にもこの条約の「効果」が顕れだしている。しかし、一方で在日同胞がゴルフクラブへの入会を拒否された事件ではその違法性を認めない判決(2001.5.31)も出るなど、いまだその「効果」は揺らいでいる。 本書では人種差別撤廃条約の内容からはじまり、同条約を日本が批准した経緯、その遵守状況、条約実施監視機関である人種差別撤廃委員会における日本政府報告書審議と、その結果出された同委員会による勧告等について詳細な説明がなされている。そして、右傾化し排外主義が蔓延する最近の日本の状況をつぶさに検証しながら、人種(民族)差別を禁止する法制度を整備する必要性を力説、さらには欧州の経験等とも比較しながら日本におけるその法整備の実現可能性を模索するという形で結んでいる。 また学者、弁護士、市民活動家らが執筆にくわわった本書の特徴としては、学術的でもあるが「机上」のみではなく、「現場」にも関わってきた監修者らならではの実証的かつ実践的なものとなっており、研究者のみならず民族差別撤廃に関心を持つ多くの人にとってわかりやすく、しかも読み応えあるものとなっている。 「委員会はコリアン、主に子どもや児童、生徒に対する暴力行為に関する報告、およびこの事件に関する当局の不適切な対応を懸念し、政府に対して、当該行為を防止し、それに対抗するためのより確固とした措置をとるよう勧告する」「委員会はとくに、朝鮮語による学習が認可されていないこと、および在日コリアンの生徒が高等教育へのアクセスにおいて不平等な取扱いを受けていることを懸念」し、「差別的な取扱いを撤廃するための適切な手段を講じ」るよう「勧告する」−日本に対する人種差別撤廃委員会の勧告(2001.3.20) 日本国憲法や国際人権規約にはない民間次元における人種差別についても直接の規定を持ち、文化はじめ経済、社会といった分野において「特定の人種集団やそれに属する個人の適切な発展と保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる」ことを締約国に求める人種差別撤廃条約は、私たちの権利状況を改善させるうえで非常に大きな武器となる。その武器の「効果」は使いこなす側の力量如何によっても大きく左右される。興味深い事例や各種データも満載した本書は、その力量アップにも大いに役立つものとなるであろう。(明石書店、岡本雅享監修、編著)(金東鶴、在日本朝鮮人人権協会理事) [朝鮮新報 2005.8.8] |