共同通信社刊 「世界遺産 高句麗壁画古墳」 高句麗文化の真髄を照らす |
本書は今、東京・赤坂の国際交流基金フォーラムで開催中の「高句麗壁画古墳展」で会場売りされているきわめて希少価値の高い豪華本。朝鮮民族の美意識の原点とも言われる高句麗古墳壁画の図版280枚、模写図版69枚がすべて美しいカラー写真で紹介されている。本をめくるだけでも、はるか千数百年前の古代の華麗で絢爛たる高句麗文化の世界に浸ることができる。すべての図版には丁寧な解説が添付されており、学術的にも貴重な第一級の史料であるのは論をまたない。朝鮮と日本、東アジア全体の歴史と文化を見渡す大きな視点と専門的な解説が本書の大きな魅力の一つであろう。
たとえば、徳興里古墳壁画の天井には、天ノ川と牽牛・織女や騎馬武者、やぶさめの場面も描かれている。また、水山里古墳壁画に描かれたロングスカートの女人像などの歴史のロマンあふれる写真。これらは何を意味するのだろうか。思い浮かべるのは、日本の七夕の風習や彦星と織姫の物語、鎌倉武士の勇壮な武術競技・やぶさめのことだろう。これらの風俗のルーツが、高句麗壁画に細かく描かれている意味は、あまりにも明白だ。日本の文化の祖流はまぎれもない高句麗文化にあることを物語っている。 それだけではない。日本の古代文化と神話や伝説、信仰、天文、習慣、風俗すべてに関わるものが、高句麗文化に鮮やかに刻印されているのだ。本書の、斎藤忠大正大学名誉教授はじめ考古学の第一人者たちによる解説も圧巻。東アジアの視点から重層的な文化の成り立ちを照らし出し、高句麗文化の真髄を明らかにしていく。
本書はまた、日本画家の東京芸術大学平山郁夫学長が総監修したことでも話題になっている。よく知られているようにユネスコ親善大使でもある平山氏は、旺盛な制作活動の傍ら、世界各地の文化財、文化遺産が戦争、民族紛争や自然崩壊によって失われつつあることに心を痛め、「文化財赤十字」構想を提唱、実践してきた。これまで、実に10回訪朝して「高句麗壁画古墳群」の世界遺産登録に全面協力した。さらに、平壌に建設中の「高句麗壁画」保存センターのために、3000万円の資金協力を寄せている。平山さんを魅了してやまないのは7世紀に描かれた江西大墓の四神図。「懸腕直筆で一気に線を引く描写力は見事。これまで見た四神図でもっとも優れている。筆力が雄渾であるにもかかわらず、優美であり、造型からしても一級品。墨色の濃淡が時代の味となっており、言い知れぬ効果を出している。…まさに東アジアの貴重な文化遺産である」と。
現代史を見る視点がゆがむと過去の歴史への洞察力も鈍ってくる。そればかりか、日本では朝鮮に対する植民地支配の清算が解決しておらず、古代史においてもゆがんだ歴史認識が横行している。それは、古朝鮮、高句麗、渤海はじめ、隣国から受けた文化的な影響力を認めず、否定し、その記憶すら抹消しようとする動きと通じている。また、昨年の世界遺産登録の際の中国側の動きにも見られたように、高句麗を「中国の一地方政権」だとする事大主義的な許しがたい言説にも警戒心を持たねばならない。 日本古代の文化、伝説、神話、説話、信仰、天文、習慣、風俗にかかわる「高句麗壁画古墳」の世界。これらの壁画の世界こそ、日本古代史の貴重な証人であり、朝・日古代史と東アジア史を紐解くキーワードなのである。 夏休み中の親子見学の一つとしてぜひ、東京・赤坂の「高句麗壁画古墳展」に足を運んでほしいと切望してやまない。(朴日粉記者) [朝鮮新報 2005.8.24] |