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〈本の紹介〉 朝鮮人戦時労働動員

 「朝鮮人強制連行は虚構だ。教科書から削除せよ」という暴論に対して、いかに有効な批判が可能か。本書は、在日朝鮮人史、強制連行問題研究の学問的成果に則りつつ、従来の研究水準を一歩前進させることでその課題に挑んだ。強制連行、強制労働、民族差別という三側面を含む包括的概念として朝鮮人戦時労働動員を位置づけ、その実態を克明に明らかにした。歴史問題に関心を持つ広範な読者にとって有益な一冊。

 本書の課題の第一は、「朝鮮人強制連行説は虚構だ。教科書から削除せよ」との見解に対して、史実の厳密な検証に基づいて批判しようとするものだと、著者の立場は明快である。

 「虚構説」が歴史教育の問題として表面化したきっかけは、04年1月17日に行われた大学入試センターの世界史の試験で提出された問題だった。その問題とは「日本統治下の朝鮮」に関連して次の四つの選択肢から正しいものを一つ選ばせるものだった。

 @朝鮮総督府が置かれ、初代総督として伊藤博文が就任したA朝鮮は、日本が明治維新以降初めて獲得した海外領土であったB日本による併合と同時に、創氏改名がなされたC第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた。

 正解はCである。

 これに対して、自由主義史観の提唱者で、かつてその指導者の一人である藤岡信勝は、同年1月22日付の産経新聞の「正論」欄に「拉致解決妨げるセンター入試」と題して、この問題が「極めて不公正で不適切な設問である」と異議申し立てを行った。

 藤岡は「強制連行」という呼称は「政治的な糾弾の機能を担う造語」だという。しかし、他者を「政治的」と非難する前に、自分が政治的になっていないか、冷静に自己点検すべきだと、本書の筆者の一人山田昭次・立教大名誉教授は指摘する。

 「私たちは朝鮮人強制連行説虚構論は、日本の戦争責任や植民地支配にかかわる史実を歴史教育から抹殺し、日本ナショナリズムを高揚させようとしているものと判断する。しかし、私たちは彼らの政治的主張に対して単純な政治的応酬をここでしようとは思わない。何より彼等の立論の方法や根拠に対して私たちの立論の方法や根拠を対置したい」と。

 いまや、「虚構説」は日本の政界、学界、メディアなどあらゆる場所に吹き荒れている。学ぶべき歴史を学ばせず、記憶すべき過去を抹消しようとする恐るべき暴風である。その流れに抗するために、闘う武器となる「知」の一冊である。(山田昭次、古庄正、樋口雄一著)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.9.4]