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〈本の紹介〉 対論・日本のマスメディアと私たち

 精神科医で関西学院大学教授の野田正彰さんと同志社大学教授の浅野健一さんとの対談本。

 日本のマスメディアの現在をさまざまな観点から指摘し、情報操作にだまされない真実をつかむことができるジャーナリズムを対置していこうと説く。

 本書で注目すべきは、日本のジャーナリズムの姿勢への批判と問題点の鋭い指摘だ。

 まだ記憶に新しいJR福知山線脱線事故。死者107人、負傷者549人を出した大惨事での報道は、日本のマスメディアによる集団的な取材、報道の人権侵害が端的に表れた重要な事件だったと指摘する。

 亡くなった遺族や関係者への配慮が欠けた報道機関の「過熱取材」が招いた人権侵害。遺体安置所を望遠レンズで撮影し、遺体確認を終えた遺族を報道陣が取り囲み、マイクを向けて「どうでしたか」と。警察が公表しなかった「匿名」の問題も取りざたされたが、警察が発表しようがしまいが必要な情報はメディアが取材、報道する必要があり、どう取材し、報道するかはメディア自身が自律判断すべきだと著者は語る。

 また、朝鮮拉致問題をめぐる対談も興味深い。

 今なお続く拉致問題をめぐる報道。「拉致」を理由にした「反朝鮮キャンペーン」と「核」問題に対する情報操作で、朝鮮への誹謗中傷が続いている。浅野さんによると、世の中にはさまざまな悲惨な事件や災害の被害者がいるのに、2年以上も執拗に報道することは例がないという。

 野田さんは、拉致問題において今までの新聞社のインタビューやコメント、論評などを整理すると大きく2つの動きがあるという。

 1つは「やはり朝鮮はけしからん」、2つ目は「5人や20人の拉致どころではない」。そして、それ以前に過去の日本の朝鮮支配を反省すべきだと批判する。

 さらに両氏が強調するのは、日本の朝鮮に対するバッシング報道の低劣さ、貧困さである。「よろこび組」のビデオをワイドショーで流したり、朝鮮の貧困さを笑い「北朝鮮はあわれだ」と茶化す日本の報道に警鐘を鳴らす。

 野田さんは、「情報社会になり、人々は事実の情報により、自分で判断していると思っている。…極端に権力が巨大化し、市民は政治に参加できなくなっている。それゆえ今まで以上に、ジャーナリズムの機能が大切。多角的に批判的に状況を伝えないといけない」と語っている。

 新聞、雑誌、インターネット…。さまざまな媒体の情報が氾濫する情報化社会。どの情報が本当なのかを自身がよく見極める必要がある。

 両氏は、「一般市民も自分の目の延長、足の延長としてジャーナリズムを育てるという考え、意識を持たないといけない」とも説く。

 若者へは「日本の新聞、テレビ、雑誌だけだと日本国内の問題、世界の情勢を読めなくなる」とインターネットの活用を促す。市民たちには「ジャーナリズムは自分たちでつくるもの」−それを本書は教えてくれている。(野田正彰×浅野健一著)(金明c記者)

[朝鮮新報 2005.9.20]