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「劇団アランサムセ」05年公演 「アベ博士の心電図」

 「アベ博士の心電図」という何やら刺激的なタイトル。副題は「記憶、或いは歴史の喪失について」とある。

 のちに「アベ心臓」と呼ばれる人工心臓を造りだし、生命工学分野の第一人者となったアベ博士が、人間の支配をもくろんで取り組み始めた「人工脳」の研究。この最初のサンプルになったのが、在日の少女だった。アベ博士(金隆一)、少女(金愛玲)、少女をかばう科学者(慎泰俊)らによる活劇のような舞台となった。笑いを意識しすぎたいささか過剰な動きは鼻につくが、成長著しい金隆一らの歯切れの良いセリフと脚本の良さに救われた。

 察しのいい読者はお気づきであろう、「安倍晋三」氏に代表される日本の政治家たちが過去の歴史を必死に隠ぺい、否認、わい曲、抹消しようとしている動きを。この舞台は、そうした日本の侵略戦争の記憶を消し去ろうとする昨今の「歴史修正主義」の動きを、演劇の空間で強く批判しようとする試みなのだ。その意味で、「劇団アランサムセ」(16〜19日、東京・新宿タイニイアリス)の05年公演は、朴成徳脚本、金正浩演出の会心作となった。

 「アランサムセ」の今後に一つ注文を。若い団員たちのパワーと愛敬あふれる演技には感心するが、何かプラスアルファがほしい。人間の陰影を表現するセリフ、演技、間合いの取り方、客の心をつかむ心の温かさ−。

 全体に在日同胞の歴史と歩みへの温かいまなざしはあるが、それを裏づける人間観察の深みのある演技をみがいてほしい。(粉)

[朝鮮新報 2005.9.28]