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〈本の紹介〉 ある弁護士のユーモア

 本書は、ソウルで出版されたベストセラー「山民客談」の日本語訳。筆者の自己紹介的な内容からこれまで関わってきた裁判、司法の問題点、権威主義時代に体験したことのほか、朝鮮訪問における見聞、海外の人物や物事についての所感、南朝鮮の政治、社会への批判を扱ったものが収録されている。

 文章の執筆時期は、1968年2月から04年3月までの36年間に及んでいる。朴正熙軍事独裁体制の下では民主化運動、労働運動に対する激しい弾圧があり、多数が犠牲者となった。朴正熙射殺事件、光州民主化闘争、87年6月抗争が起こり、大統領は全斗煥、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉と代わり、南朝鮮は政治的に大きな変ぼうを遂げた。

 著者は軍事独裁政権時代、権力の犠牲になった多くの人々の弁護活動に当たった。そのため権力によって「好ましからざる人物」と見なされ、逮捕、起訴され、ついには弁護士資格をはく奪されてしまった。さらに、「金大中内乱陰謀事件」にも「連座」したとして連行、拘禁され、その結果、通産7年にわたって弁護士活動の中断を余儀なくされた。83年8月に復権して弁護士活動を再開。98年3月、金大中政権の出帆とともに監査院長に就任した。

 収録された文章には、それぞれ執筆当時の時代的状況が見事に反映されている。著者のユーモアとウィット溢れる文章を楽しむのもいいが、当時の南朝鮮の政治社会状況に思いを馳せてもらいたい。

 文芸評論家の任軒永氏は、「作品解説」でこう述べている。

 「韓国随筆文学の伝統のひとつである諧謔と滑稽という民族特有の笑いの種が失われてしまった中で、彼の随筆は笑いの失地回復を図ろうとするものである。韓勝憲のユーモア随筆は、ヘーゲルが指摘したように、最も悲劇的な状況、暗澹たる時代的な苦痛の前で、その終末を告げようとする『喜劇的様式』のひとつとして登場したのだ。彼のユーモアはどんな独裁者でも笑わずにはいられないコメディ的な要素を有している。彼は分断韓国史がもたらした軍部独裁体制が生んだ、散文文学のチャーリー・チャップリン的な実現である」(韓勝憲著)

 11月3日(木)、ソウルから人権弁護士の韓勝憲先生が来日。「苦しみのなかのユーモア」をテーマに出版記念文化講演会が開かれる。問い合わせ(NPOハヌルハウス)@03・5996・9426。

[朝鮮新報 2005.10.17]