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くらしの周辺−支配

 つくばに来る前、八王子で研究生活を送っていた。研究室は大学内の空き地に建てられたプレハブ小屋。生物好きの同僚たちが生き物を持ち込み飼っていた。 アカハライモリ、イベリアトゲイモリ、コオイムシ、トカゲ、カナヘビ、モンシロチョウ、アゲハチョウ…。小屋の前の小さな水槽には、流金の「流」と「金」が暮らしていた。

 秋の深まる頃である。外から同僚女性の悲鳴が鳴り響いた。水槽にえたいのしれない生物がいるという。緑に濁った水中に網を入れ、恐る恐るすくってみる。突然、20センチほどの細長い薄茶色の物体が2体、くねくねとしながら水面に浮き上がってきた。見てはいけないものを見てしまったような気持ち悪さ。この生物は何だろう?「カマキリに寄生するゼンマイ(ハリガネムシ)に似ているね」「そういえば、数日前、水槽にカマキリの死がいが浮いてました」「でも、それにしては大きすぎるような…」

 さっそく情報収集開始。やはり、紛れもないハリガネムシであった。この寄生虫は水中で卵を産み、まず、水性昆虫などに寄生。その後、カマキリを最終宿主として成長する。そして、夏が過ぎると、カマキリから抜け出し、水中に戻ってくる。でも普段カマキリは水辺にいない。なんと、ハリガネムシは宿主となったカマキリを「意図的に」水辺へ誘導するのだ。そのメカニズムはよく解っていない。体だけでなく、行動をも支配するハリガネムシの生存戦略。大半のカマキリがこのムシの支配を受けているらしい。深まる秋の夕暮れ。真っ赤な夕焼けがハリガネムシの不気味さと異様に重なった。(成耆鉉、生物学研究者)

[朝鮮新報 2005.10.17]