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〈本の紹介〉 抵抗論

 戦争、テロ、強者への服従−世界中で荒れ狂う米国のとてつもない強大な暴力。その強大な力に対して作家、辺見庸氏の腹の底から噴き上げてくる激しい憤りをぶつけたのが「抵抗3部作」と呼ばれる「永遠の不服従のために」「いま、抗暴のときに」、そして「抵抗論−国家からの自由へ」(いずれも毎日新聞社刊)である。その3部作がこのほど講談社文庫として完結した。

 9.11テロ、アフガン報復爆撃、侵攻、イラクへの侵略戦争、そして、自衛隊派兵、朝鮮半島をめぐる危機…。

 この壮大な反動と非道の世界。こうした怒涛のような情勢変化に三つの本は激しく対応してきた。

 その暗い闇に辺見氏は「単独者」として、身体と精神を丸ごと投げ打って闘いを挑み、そして病に倒れた。本書にはその闘いを支える激しい抵抗の精神が満ちあふれている。

 日本中にあふれる「中立」を標榜しての戦争加担の言説、ジャーナリズムの目を覆うばかりの堕落。ますます日本のいまは「新たな戦争へと向かいつつある」というのが、辺見さんの強い危惧である。

 ひと昔前には想像もできなかったことだが、解釈改憲ではなく、明文的改憲を求める声も強くなり、改憲論者には抑制も遠慮もなくなっている。

 こうした状況について辺見氏は「世界の戦争モードに日本も法的に合わせていくということ」と本質を見事に言い当てている。 

 表層風景にのみこまれて、ジャーナリズムとしての平和的論理性を欠落させ、歴史的視点を失っている日本のメディアの狂気。そのなかにあって辺見氏は 「反動政治が日一日と闌け、情勢が猛り狂えば狂うほどに、私は外面の変化を追いかけるだけではなく、自他の眼差しの質と人の内面のありようを問うてきたつもりでいる」と書く。

 この3部作すべての巻末の解説を担当した作家・金石範氏は「私は本シリーズで、辺見庸がこれほどまでに徹底して狂≠フ時代に立ち向かっているそこに、作家の姿を見る。世に作家は辺見庸一人ではあるまいに」とつぶやく。

 この見方に共感する向きも多いことだろう。脳出血で昨年倒れた辺見氏は、おそらく想像を絶する努力で、この夏書き下ろしを発表するまでに回復した。その強靱な精神力を支え続けているのが、「戦争的環境」でどう生きればいいのか、どう抵抗すればいいか、という一念だった。そこには「狂の時代」にあって決して屈せぬ人間の熱い精神が躍動しているのだ。(辺見庸著)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.11.30]