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〈本の紹介〉 朝鮮女性の知の回遊 植民地支配と日本留学

 本書は「山川歴史モノグラフ」シリーズの一冊に選定され、山川出版から出版された優れた研究書である。

 日本の植民地支配は、朝鮮から日本への人の流れを作りだした。その流れにのった留学生、労働者、移住者については、在日朝鮮人運動史、留学生運動史、在日朝鮮人社会形成史として研究され、その蓄積も多い。しかし、戦前、日本に留学した朝鮮人女子学生についての研究は、他の分野に比べても大きく立ち遅れてきた。本書はその大いなる空白を埋める研究であり、多くの人々の期待に応えた待望の研究成果であるといえよう。

 当時、朝鮮女性がどれほどの規模で、なぜ、日本に行き、何を学び、どのような研究をして、帰国後、どのような役割を果たしたかなど、その一つひとつの問題を朝鮮近代ジェンダー史の課題として意識しながら、歴史的理解を深め、朝鮮女性の日本留学という歴史、社会文化的現象の全体像を体系的に明らかにしていく作業が不可欠である。

 本書は朝鮮人女子学生が歩んだ出発から帰国までの留学の全体像を、社会文化史、社会文化交流史、ジェンダー史の視点から鮮やかに浮き彫りにしている。

 筆者の学問的な姿勢はきわめて真しで、真面目なものである。すなわち、従来の朝鮮近代史研究は、植民地期を「日本の支配と朝鮮民衆の抵抗」という図式からのみ捉える傾向が強く、それによって、植民地期に生じた朝鮮社会の政治、経済的な変化や、社会文化的な変化を多面的に検討することに、ややおろそかであったという問題が指摘されている。本書はその点にも果敢に学問的なアプローチを試みて、時代に対する重層的で矛盾に満ちた実体に即した理解に務めている。

 筆者は次のように指摘する。「植民地と帝国との『知の交流』はほとんど一方通行であった。日本人、日本社会との双方向的な交流は皆無とはいえないが、主に朝鮮人女子留学生は日本で獲得した『知』を持ち帰り、普及させる役割を担ったのである」と。もちろん、それはやがて、植民地的なもの、民族的なものと融合、反発しながら、新たな「朝鮮固有のもの」を作り出し、それが日本文化に新たなる知的刺激を与えたり、挑戦したりする、「知の交流」の跳躍台を作るものであったことはいうまでもない。

 本書は女子留学生が学んだ「知」の内容、性格を明らかにしつつ、その知の行方、「知の回遊」を検討していて、ずっしりと読み応えがある。そして筆者は、「当時、女性だからこそ学ぶことができた『知』、その『知』を獲得することによって、果たした役割の分析にはジェンダー史的分析が欠かせない」と強調する。一国史を超えた東アジア・ジェンダー史研究の視点を貫いた意欲作となった。(朴宣美著)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2005.12.19]