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くらしの周辺−正しい選択

 富士山の見えない富士見台公園。この広くて芝生の美しい公園は、以前住んでいたアパートとプレハブ実験小屋の間にある。

 深夜の公園はまさに野良ウサギ(捨てウサギ)たちの運動場。数羽のウサギたちが元気に跳ね回る。人には馴れているものの、決して警戒心を解くことはない。

 小雪舞う冬の昼下がり、一羽のウサギが広場に迷い込んできた。ウサギはわれわれが近づいてもさほど逃げようとしない。おそらく弱っているのだろう。そこで一時的に小屋で飼うことに。ウサギはあっさりと捕獲され、実験ウサギ用のケージに移された。

 このウサギ、どうも公園の奴らとは違う。ここではかわいそうだというパートの奥さんに引き取られ、マンション住まいが始まった。

 翌日だったか、奥さんは非常に困った顔で現れた。なんとこのウサギ、マンションで8羽の赤ちゃんを出産したのだ。そういうことだったのか! 

 人に飼われ、捨てられた母ウサギ。彼女は人間の愛情も、そして非情さも知る。母ウサギはわが子のためか、今度は自らヒトを選んだのだ。母ウサギの願い通り、子ウサギたちは、それぞれ、心優しいヒトたちに引き取られていった。

 母ウサギの気持ち。本当にそうだったのか。ウサギの心は本当に人間に理解できるのだろうか。動物の行動の科学的理解は私の心をいまでもくすぶり続ける。だが、このウサギの行動にはどうもほかの感情に強く揺さぶられているようだ。母ウサギの一連の行動に、私はただ、自分自身を映し出そうとしているのかもしれない。(成耆鉉、生物学研究者)

[朝鮮新報 2005.12.19]