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山で元気!−屋根天山(佐賀県、1046m)

 草花は、植木鉢の花のように華やかに咲くのは難しい。だがどんな逆境にも負けず、必ず春が訪れると、小さくてかわいい花をつける。人間にもそういう生き方が似合う人がいる。

「暗い気持ちが吹っ切れた」と筆者

 十年前、次兄を亡くし、去年の11月長兄がこの世を去った。淋しい日々が続く中で故人の遺服に灯油をかけ燃やし始めると目頭が熱くなり自然と涙がこぼれ落ちる。酒なしでは眠れない夜。そんな私を心配するうちのかみさんが「あなた! 登山でも行ってきたら」と言う。そんな気になれない私だったが老体にムチ打って1人淋しく冬山に向かう。

 佐賀県の屋根天山(1046メートル)を石体越えから登る。登山口から急坂を30分ばかり歩くと冷え切った体は、暖まり額からうっすらと汗がにじむ3カ月ぶりの登山。アルコールに毒されている体は悲鳴をあげた。

 今日は小鳥の鳴き声がしない。寒いからだろうか? それとも長兄の魂がついて来ているからだろうかと思い山の中腹まで登った。頂上近くまで来ると遠くに見える道標が人のように見えたが近くに行くと誰もいない。私は強風の当たらない石塔の下で持ってきた3個の盃に酒を注ぎ手を合わせ空を見上げる。雲の切れ目から漏れる太陽の光があたかもあの世につながる階段に見え母と次兄の霊がゆっくり降り長兄を天山のてっぺんから連れて行ったように思えた。「さようなら、兄ちゃん! まちがってもまだ下関の兄と俺を迎えに来るんじゃあないよ」と祈った。

 しばらくしてビンに残った酒を一気に飲み干して下山にとりかかる。今まで晴天で佐賀平野、玄界灘などが遠くに見えたがまるで嘘のように強風が猛吹雪と変わり景色は何も見えない。

 下山すると頂上は雪でまっ白に染まっていた。私は暗い気持ちが吹っ切れ悲しみに曇らず喜びに奢らずこの不況を乗り越えて行く勇気がわいた。さらば長兄(享年64歳)。(12月28日、佐賀県多久市朝日登山クラブ、沈成達)

 【コースとタイム】多久市(自宅)〜小城郡石体越え〜天山頂上、約2時間

[朝鮮新報 2005.2.4]