朝鮮代表の在日Jリーガー2人に聞く 経験生かし次回のW杯へ |
「北南統一チームでの出場も夢」
筆者は5月26日、本紙など在日朝鮮人関係のメディアに書くフリーランスとして、アジア・サッカー連盟に取材申請書を送り、6月8日、バンコクのスパチャラサイ競技場で行われたサッカーの2006年ワールドカップ(W杯)ドイツ大会アジア最終予選B組の日本×朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)戦を取材した。 試合は日本が2−0で勝ち、ドイツ本大会出場を決め、日本のメディアは大騒ぎした。ある全国紙記者は自社の紙面展開を見て、「まるで大政翼賛新聞のような紙面だ」とため息をついた。朝鮮側のプレーぶりについては、ほとんど無視だった。運動ニュースとしてフェアではない。 本来この試合は、朝鮮の平壌で開催される予定だったが、朝鮮が3月にホームで迎えたW杯予選・対イラン戦で観客が審判団に抗議するなどしたため、国際サッカー連盟(FIFA)が朝鮮に対して、「(次のホーム試合は)第三国・無観客」という厳しい処分を下し、バンコクでの開催となった。 私は正午過ぎから試合終了後に両国選手がバスに乗り込むまでを取材したが、この試合はとても「第三国・無観客試合」などではなく、1000人を超える人々がメインスタンドにいた。ペンもカメラも持たずに、日本を応援している企業関係者、広告代理店の関係者も目立った。 日本では「見えるのは警備員だけで、静まり返ったスタンド」と報道され、テレビ中継もメインスタンドの群衆を映さなかった。
川渕三郎キャプテンは試合後、スタンド内にいた日本人の集団に「サポーターのみなさんありがとう」と手を振った。スタンドにサポーターがいたのだ。 サッカーというスポーツはボールの前では誰もが平等だと言われるが、バンコクでの試合は本当にフェアだったのか−という検証が必要だ。 試合翌日の6月9日、バンコク市内のホテルで、朝鮮代表の在日朝鮮人Jリーガー、李漢宰(サンフレッチェ広島)と安英学(名古屋グランパスエイト)に話を聞いた。フル出場した李はボランチとして活躍した。安はケガのためリハビリ中でイラン戦には同行せず、4日にバンコク入りしベンチから声援を送った。 −残念な結果に終わったが、今の気持ちは。 李:この試合に勝てば、バーレーンを抜いて3位に入り、プレーオフに進出できる可能性があったため、どうしても勝ちたい試合だった。みなさんの期待に応えられなくて、残念な結果だ。でも多くの人たちに支えられてここまできた。今回の経験を生かしてがんばりたい。
日本選手もそうだったが、猛暑と高い湿度などでコンディションが悪く、全体に動きが良くなかった。最終予選は、2月9日に日本のさいたまスタジアムで行われた初戦からずっと先取点を許す展開が続き、今回も先に得点されて、自分たちのサッカーが十分にできなかった。技術的にも日本のほうが上回っていたと認めざるをえない。今日から次のW杯本大会出場を目指して、朝鮮、そして在日の人たちの期待に応えたい。 −安選手はベンチの中央で出場選手に檄を飛ばしていたが。 安:声を出すことしかできなかった。ベンチで、ちょっとでもみんなの力になれればと、大声で応援した。みんな一生懸命やったが、勝てなかった。しかし、みんなよくがんばった。この経験が4年後、いや2、3年後に始まる次の予選突破への再挑戦に生かせるはずだ。今日から新たなスタートだ。 名古屋グランパスエイトから、日本戦には絶対に出場してはいけないと厳しく止められていた。ドクターの診断書付きの指示だった。「お前なら、出るといって、プレーしかねないから」ということだった。リハビリ中はトレーニングをほとんどやっていなかったので(どのみち出場は)無理だったが。 明らかに力の差があったことを認めなければならない。トラップ、クリアするときの判断とか、少しずつ日本のほうが上だった。 −昨日の試合は全然「無観客」ではなく、メインスタンドに1000人近い「観客」がいて、そのほとんどが、日本関係者だった。タイの9日付英字紙2紙は「無観客試合なのに、日本のプレスという名の小軍隊とメディアではない人々がどこからか潜り込んでちらほらと見えた。日本の記者とカメラパーソンは558人いたと言われている」(バンコクポスト)、「日本は500人の報道陣とVIP招待客を含む自国民の前で勝った」(ネーション)と報じている。 李:私たちも「無観客」というのは経験がなかった。サテライト(二軍)の試合でも少しは観客がいる。どういうことになるかと思っていたが、昨日のゲームは、「無観客」でも中立でもなかったと感じる。 メインスタンドの中央は上から下まで、人でいっぱいだった。取材ならスタンドの下のほうにいるはずなのに、上のほうに人がいっぱいいたのはおかしい。日本のゴールのときには拍手や声援もあった。 ホームの平壌で試合をやりたかった。それを楽しみにしていたので、残念だ。 安:日本の人たちに平壌に来てもらい、実際に国を見てもらいたかったので、残念だ。 −日本のほとんどのメディアは、FIFAの厳しい処分はホームでのイラン戦後に起きた「暴動」のためと報道しているが、どう思うか。 李:あの出来事は「暴動」ではない。イラン戦の前から審判の判定に不満を抱いていて、それが積もり積もっての意思表示だった。選手も観客も同じ気持ちで抗議した。観客がムカついたからというのではなく、純粋な(抗議の)気持ちの表れだ。どうしても朝鮮を勝たせたいという強い気持ちで起きたことだ。 安:私も「暴動」というのはおかしいと思う。サッカー好きの人々は、どうしても、自国のチームを勝たせたいという熱い気持ちになる。 −在日のプレーヤーが朝鮮代表として出場する意味は。 李:最初、アジア大会で初めて代表に選出されたときは、突然、日本から合流したので、「何だこいつは」という感じで迎えられたようだった。でも、一緒にサッカーをやっていくうちに、チームと打ち解けて、今は何の違和感もない。 安:さいたまでの第1戦のあと、日本の人たちが私たちのことを知ってくれて、励ましの手紙やメールをいっぱいもらっている。 −昨夜も朝鮮代表がバスに乗り込むときに、大阪から来たという日本サポーターの女性が、「広島の李選手が好きだ。今日もいいプレーだった」とバスの前で手を振っていた。 李:ありがたいことだ。昨夜は、プレーオフに進出できなくなったという考えで頭がいっぱいになり、帰るとき、顔を上げられなかった。ちゃんと声援に応えるべきだったといまは反省している。 −国際試合の経験不足だという指摘もあるが。 李:国際試合を重ねたら強くなるというものではない。あらゆる方法で力をつけ、自分たちのサッカーをつくることだ。予選での経験を生かしたい。 −ドイツの次にあるW杯は、統一国家のコリアで大会進出してほしい。統一チームだと非常に強いのでは。 安:すごい力になると思う。代表になるのも大変になる。しかし、北と南の統一チームになっても、代表に選出されないと意味がないので、技術をどんどん磨いていきたい。 李:安選手に、ぜひ朝鮮代表チームのキャプテンになってほしい。 安:それはわからない(笑)。でも、在日のプレーヤーが私たちの後に続いてきてほしい。朝鮮代表に在日選手が4、5人選出されるようになれば、後進の若い在日プレーヤーにも励みになるはずだ。(本紙特約フリーランス、浅野健一、同志社大教授) [朝鮮新報 2005.6.14] |