top_rogo.gif (16396 bytes)

〈同胞法律・生活センターPART2 C〉 医療、介護の改革の中で-下-

 シリーズでは高齢者の医療と介護における負担の増加について指摘し、医療費の抑制による「医療の切り捨て」、軽度介護者のサービス利用の制限と要介護者へのサービス縮小などについて説明してきた。年金制度から除外されている同胞高齢者は、今回の改訂(改悪)によりどのような負担を余儀なくされるのだろうか。私たちはこの問題についてどう取り組むべきなのかを考えてみたい。

同胞高齢者への影響

 無年金の同胞にとって、今回の負担増が大打撃になるのは明らかだ。今回の改訂は高齢者に年金収入のあることが大前提で、いわゆる「タンス預金」をにらんで負担を強いることに本質がある。これまで何とかやりくりしながら生活してきた同胞高齢者にとっては、見当違いの迷惑千万な話である。

 そこで、実際のところ同胞高齢者にどのような影響が予想されるのか、事例をもとに検証してみよう(事例の中で、あらたに生じる負担金については医療機関や各自治体によっては助成制度もあるので全国一律ではない)。

 【事例1】82歳の金ハルモニは、脳梗塞の後遺症による重度障害があり、2級の身体障害者手帳を持つ。最近、腰痛がひどくて医師の指示により、週3回リハビリのため通院している。病院の窓口での会計は1回240円で、月2回を超えても480円の負担ですんでいた。さらに、病院での検査やレントゲンなどを受けても自己負担はない。

 ところが改訂後は、リハビリに通うたびに240円を支払わなければならない。金さんは、毎月平均して10回ほどは通院するので、リハビリだけでも2400円の負担となる。さらにそれ以外に検査を受けると、そのつど診療内容に応じて1割負担をすることになった。

 それまでは1カ月480円ですんでいたのが、こんなに負担が増えるとなれば具合が悪くなっても診察はおろか検査など受けられない。

 【事例2】79歳の李ハラボジは「要介護1」。若い同胞ケアマネジャーの姜さんが担当しており、週に2回ヘルパーさんに来てもらい、掃除や買い物、食事の支度などの「生活援助」のサービスを利用している。ケアマネジャーの姜さんは月1回李さん宅を訪問するが、そのたびに李さんの思い出話や姜さんに結婚相手を紹介しようかなどと楽しい会話が弾み、李さんも姜さんの訪問を楽しみにしている。

 それが、今後は介護サービスは「地域包括支援センター」の管轄となり、これまで担当してくれた姜さんに代わって「センター」職員が契約にやってきた。やれ「介護予防だ」「自立重視だ」などと一生懸命に説明はするが、ハラボジには全く通じない。やがて引きこもりがちになってしまった。

 【事例3】無年金で独り暮らしだった趙ハルモニは、持病のため入退院を繰り返していた。毎月の入院費は1000円と食費(1日/500円)で、およそ1万7000円程度。しかも重度障害者なので、食費は還付請求により全額が戻ってきていた。日常的な介護が必要になり、一人での生活が困難になった趙さんは息子夫婦と同居することを決心し、息子の扶養家族となった。

 ところが、持病が悪化し1カ月入院した趙さん。請求書をみてあっけに取られた。入院費3万7200円と食費(1日/780円)で、合計6万600円。食費もこれまでとは違って戻らないと言われ、ばく大な病院代を前に途方に暮れている。

解決すべき問題点

 国の制度の立ち後れ、後退の中で、同胞高齢者を日本人と同じ地域住民として取り扱うべき地方自治体の役割はますます大きくなっており、期待されているところであろう。

 90年代に入り、一部の同胞高齢者や障害者が現行の年金制度から除外されている状況を鑑み、多くの自治体が独自の給付制度を発足させつつある。しかし「情報」から遮断されがちな高齢同胞は、そのような制度へのアクセスがなかなか困難である。外国人向けのさまざまな相談窓口を各地域で設置し、誰もが容易に利用できるシステム作り、多言語による各種パンフレットの作成などによる周知の徹底などが求められるのではないだろうか。

 国の労働関係法の運用の改善や社会保障、福祉を含めた生活保障の整備と運用の改善はもとより、本来の労働行政、福祉行政への転換が必要である。また、在日同胞に対する社会保障や戦争犠牲者への補償問題は早急な解決が求められている。

最後に

 同胞高齢者問題はその本質や状況などからして、もはや時間的猶予はない。植民地時代を生き延び日本政府の差別と抑圧に耐えてきた1世同胞らは、私たち2、3世のよき先輩であり恩人である。

 人生の終末期にさしかかる彼、彼女らを支援、援助していくのは私たちに課せられた義務だと言える。それを遂行していくには、同胞の力が必要不可欠だ。とくに総連の支部、分会などが積極的に保健、医療、福祉に携わる若い同胞専門家、そして地域の自治体とネットワークを築き、情報を共有化することがとても重要だと思う。

▼ちょっとひとくちメモ▼

−わたしたちにできること−

 ●同じ病気で複数の病院を掛け持ち受診したりしてはいませんか?

 一つの病気でお医者さんをあちこち変えることは、それだけ受診した医療機関が増え、医療費の増加につながります。

 ●緊急時以外、時間外や休日でもかまわず受診していませんか?

 時間外や休日の受診は加算料金がかかり医療費が増えます。

 一人ひとりのちょっとした心がけで今の急激な医療費の増加を緩やかにすることができます。まずは、お医者さんに上手にかかりましょう。

 ●かかりつけのお医者さんを持っていますか?

 体調が悪くなったら、まず近所の「かかりつけ医」に受診しましょう。

 ●定期健診を怠っていませんか?

 病気の早期発見、早期治療は重症化を防ぎ、医療費の節約につながります。健康診断を定期的に受けましょう。

 ●適度な運動をしていますか?

 十分な睡眠、食事、そして適度な運動を心がけ、病気の予防に努めましょう。

(洪東基、ケア・マネージャー、共和病院医療福祉課)

 同胞法律・生活センターでは住まいサポート活動を行っています。

 引っ越しシーズンの到来です。同胞にとって住まい探しは昔も今も困難がつきもの。センターでは同胞不動産業者や家主さんの協力のもと、住まい探しのお手伝いをします。また、弁護士、建築士、福祉住環境コーディネーター、宅地建物取引主任など各分野の専門家の協力を得ながらさまざまな相談にもお応えします。まずはお気軽にお電話ください(TEL 03・5818・5424、平日の午前10時〜午後5時)。

[朝鮮新報 2006.3.20]