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「ミサイル発射」報道をどう見るか 日本、在日、南の若者が話し合う

「軍事化促す材料」に憂慮

 朝鮮のミサイル発射後、日本政府の「制裁」や国連「決議」の採択などで朝・日関係は最悪の状態にある。朝鮮学校の生徒を中心に在日コリアンへの暴言、暴行事件も起きている。その原因のひとつとして、過剰なまでのマスコミ報道が挙げられる。そのような状況を日本人、在日コリアン、南朝鮮の若者が一堂に会して話し合う「日、朝、韓若者トークセッション ミサイル報道後の『わたしたち』は?!」(ピースボート主催)が7月28日、東京・高田馬場のピースボートセンター東京で行われた。10〜20代の若者を中心に約100人が集まった。出身や所属、立場によってまったく異なる経験や思いを持つ若者が、それぞれの思いを率直に語り、意見を交換した。参加者らは話し合いだけで終わらず行動に移すことが大切などと感想を述べていた。

9条空洞化させる行為

 1部では、ジャーナリストの野中章弘氏が基調講演を行い、@憲法9条について、A「本当の危機」とは何なのか、Bミサイル発射と関連して朝鮮学校の生徒や在日コリアンに対する嫌がらせが起きる社会とはどんな社会なのか−といった3つの問題に焦点をあてて話した。

 日本政府の「制裁」措置には反対だという野中氏は、テレビで著名人らが日本の軍事力装備を促すような発言をしていたことに触れ、「憲法(9条)を空洞化させ破壊する行為」だと批判した。そして、ミサイル問題の平和的解決には、「制裁」や「圧力」「軍備化」ではなく、対話というきちんとした外交が求められると強調した。

日本の報道に感覚麻痺

会場には10〜20代を中心に約100人が集まった

 2部では、日本、在日コリアン、南朝鮮の若者が出演しトークセッションが行われた。

 まず、司会を務めたピースボートスタッフ・゙美樹さんの「ミサイル発射報道に何を感じたか」という質問にパネリストがそれぞれの思いを語った。

 ピースボート京都スタッフの嵐文さん(24)は、「まず、なぜ発射したのかという疑問がわいた。(日本の報道では)わからないことだらけ」と率直な感想を述べた。

 南朝鮮で大学を卒業し、今は同団体スタッフとして活動する趙真慧さん(24)は、日本の報道があまりにも過剰との意見。7月中旬に南朝鮮に帰ったが、ミサイル関連のニュースはそれほどなかったと、日本の報道との格差に驚きを隠さなかった。「日本の報道に接しているとだんだん感覚が麻痺していくことに気づいた」という。

 「マスコミ報道に接して、朝鮮学校生徒の身に危害が及ぶのではないかと心配になった」と語る一橋大学大学院生の文泰勝さん(24)は、朝米は今も停戦状態にあり、朝鮮からすれば常に外国の脅威にさらされている点について説明した。

 パネリストと共に討論に参加した野田氏は、「日本は騒ぎすぎだ。自分たちの側からばかり意見するのではなく、相手の立場に立って考えることも必要だ」と述べ、拉致問題や今回のミサイル発射など朝鮮と関連する問題で在日コリアンに嫌がらせが加えられるこの社会のありかたについて、日本社会の一員としてもう一度よく考えてほしいと参加者に促した。

日本人として恥ずかしい

それぞれの立場や状況の異なる若者が率直な意見を述べた

 会場からは質問や発言が相次いだ。

 ミサイル発射に不安や憂慮を示す声も当然あったが、日本の論調が「制裁」や「報復」などに流れていくのはおかしい、対話で問題を解決すべきだ、日本がこの状況を利用して軍事化、憲法改正へと駒を進めるのではないか不安を感じるなどの意見も少なくなかった。

 今回の「ミサイル発射」を、軍事化を促す材料に利用しようとする風潮に憂慮するある男性は、「日本が騒ぐ『脅威』は的外れ。まるで被害者のような反応ばかりだ」と述べ、この被害者意識の矛先が在日コリアンや朝鮮学校生徒に向けられているのではないかと述べた。

 パフォーマーとして世界で活躍する金昌幸さんは、90通を超える嫌がらせのメールが届いたことを明らかにしたうえで、「本当の『恐怖』は、日本のマスコミ報道によって変化する在日の被害」だと、在日がマスコミの報道いかんで、嫌がらせや被害を受けるのではないかという恐怖感≠感じている現状を語った。

 金さんの発言を受けて、会場にいた在日3世のある女性は、「在日コリアンのほとんどは朝鮮学校出身者ではなく、自分がコリアンであることに自尊心をもてないでいる。自分がコリアンであることが知れると何をされるかわからないので、周囲に言えない人も多い」と述べた。

 会場からは、在日の人々は日本人以上に日常的な脅威を感じているのではないかと危惧する意見も多数あった。

 在日コリアンに対する嫌がらせがあることについて、「同じ日本人として恥ずかしい」「在日コリアンについてうわべでしか知らない人が多い。自ら勉強しなくてはいけない。国家間の対立の裏で市民たちは怯えている」「ゆがんだ日本のメディアを通しては相手に思いを馳せることが難しい。国際化が叫ばれているが本質的なものは変わっていない」などの意見が寄せられた。

 野田氏は最後に、「在日対日本人の問題ではない。刃が常にマイノリティーに向けられる恐ろしさを秘めた社会にいるという意識を持つべき」だと強調した。

 趙真慧さんは「いろんな意見を聞けて勉強になった。私たちは言葉一つひとつに責任を持つべきだ。話し合うだけで終わってはいけない。平和のために行動することが大切だ」と語った。(呉陽希記者)

[朝鮮新報 2006.8.5]