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東京で社協主催の特別講演会 非正常な朝・日関係に終止符を

肥大化する「北朝鮮脅威論」に警鐘

 在日本朝鮮社会科学者協会(社協)主催の特別講演会、「朝鮮半島情勢と朝・日関係の今後」が18日、朝鮮出版会館(東京都文京区)で行われた。講演会は、同協会の2006年度学術報告会の第1部として企画されたもの。広島市立大学広島平和研究所の浅井基文所長と、金明守・総連中央本部参事が講演を行った。朝鮮半島情勢が緊張する中で開かれたとあって、講演会には社協会員と総連の活動家に加え、同胞、学生、日本市民ら100人を超す人々が訪れ、関心の高さをうかがわせた。

先制攻撃狙う米国

講演に耳を傾ける参加者

 「朝鮮半島情勢の変化と安倍政権」というテーマで講演した浅井所長は、朝鮮半島問題に関する関係各国のアプローチを軸に、現情勢を概説した。

 浅井氏は、米国の基本姿勢には「ならず者国家」「圧制国家」の朝鮮において「レジームチェンジ(体制転換)」を実現させたいという思惑があるとし、「先制攻撃戦略」や「朝米間の合意の覆し」に、その意図が表れていると指摘した。

 「恐怖という目に見えない脅威」「新しい捉えどころのない敵」という概念で、21世紀における新たな敵を作り出した米国。この概念は、「おばけをもって敵とする」と言うことに等しく、米国の認識は奇妙きわまりないものだと述べた。

 そして、「朝鮮は能力を持ったとしても米、日に対して攻撃する意志を持つことはありえない。米国の脅威は実態とかけ離れたものだ」とし、「北朝鮮脅威論」を一蹴した。

 また、米国が伝統的な「自衛権」概念からの逸脱を加速化させていることについても指摘、自衛権の無限拡大を正当化するブッシュ政権の論理は国際法上認められないと非難し、米国の先制攻撃戦略が、朝鮮が警戒感を高めざるをえない最大の理由だと強調した。

講演した浅井基文・広島市立大学広島平和研究所所長

 一方で、米国の先制攻撃を抑止し、国家の存続を確保する手段と位置付けている朝鮮の核開発を、日本がどのように認識するかという問題にも言及した。

 朝鮮を含めた全ての国の核実験、核武装を容認できないとしながらも、「なぜ朝鮮が核実験に踏み出さざるをえなくなったのかという視点が欠落した批判はあたらない」と指摘した。朝鮮には、朝鮮戦争以来米国から核の恫喝を受けてきた歴史的背景があり、朝鮮を核実験、核保有に追い込んだ米国の政策について本質的な告発をしなければ、被爆国日本の訴えは一貫したものにならないと述べた。

 6者会談については、非核化を通じて朝鮮半島の平和と安定を達成することに目的があるとし、問題の非軍事的解決の枠組みや関係国間の信頼醸成メカニズムへの発展の可能性をその意義として挙げた。

 さらには、非核化への大前提である朝米対話、朝米国交正常化の重要性を強調、クリントン政権時代を引き合いに出しながら、朝米対話は決して不可能ではないと述べた。

安倍政権の幼稚さと危うさ

 一方で浅井氏は、日本側による謝罪と償いが明記された平壌宣言の意義を評価しつつ、宣言における優先順位を覆し、拉致問題、核問題を利用して「北朝鮮脅威論」を演出する安倍政権の対朝鮮半島政策の「幼稚さと危うさ」についても言及した。

 ミサイル発射訓練や核実験に際しての安保理制裁決議への執着に代表される、大局的、戦略的判断の欠如という「幼稚さ」と、対朝鮮強硬策一本やりの姿勢が東アジアの核惨禍という最悪の結果を招きうることへの想像力の欠如という「危うさ」に警鐘を鳴らした。

講演した金明守・総連中央本部参事

 「『朝・日平壌宣言』4年と朝・日関係の今後」というタイトルで講演を行った金明守参事も、日本における拉致問題の極大化、「北の体制転換」まで求める「救う会」などの右派勢力、米日一体の対朝鮮強硬策などを、朝・日国交正常化にブレーキをかける主要因として指摘した。

 金参事は宣言発表後4年間を振り返りながら、日本の過去清算を関係正常化の大前提とし大局的立場に立つ朝鮮側と対照的に、平壌宣言をとりあえず「有効」としながらもたび重なる「北朝鮮制裁」によって自ら対話の道を閉ざした日本側の立場の違いを際立たせた。

 また、在日朝鮮人に対するテロ行為が頻発している日本国内の状況に憂慮を示しながら、これらの犯罪は民族的な憎悪に根ざす「ヘイトクライム」であると述べた。

 130年にわたり朝・日間の非正常な関係が続くなか、歴史的な射程の中で両国の関係正常化を考え両国間の「悪循環」を絶つ必要性も強調した。

 講演終了後には、客席との質疑応答が行われた。聴衆からは、「日本は本質的には何も変わっていないのではないか」といった声が上がり、日本の歴史認識、民衆レベルでの責任などについての問題提起がなされた。

 質問に答えた浅井氏は、日本は歴史認識、国際観、他者観といった根源的な意識のあり方において、戦後60年間何も学ばずにきたため、日本を世界の中心に置く「天動説的国際観」がはびこっていると分析した。

 メディアも巻き込んでの一大「北朝鮮バッシング」が何ら躊躇もなく行われている状況についても、日本における他者感覚の欠如が表れたものだと述べた。(李相英記者)

[朝鮮新報 2006.11.22]