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〈教室で〉 西播初中 初級部 許鐘萬先生

ゲーム感覚

スマートボードを使った授業は生徒たちに大人気

 初級部4年生の日本語の時間。許鍾萬先生(28)が教室に一歩立ち入ると、子どもたちの顔にはその日の授業への期待感が満ちあふれる。教室の前面には大型スクリーンが設置され、そこには許先生のパソコン画面が映し出される。

 「ふわふわアルファベット」。順不同、ばらばらに並べられたアルファベットの上には、なぞなぞの問題が提示されている。グループ別に生徒たちが前に出て、なぞなぞの答えどおりにアルファベットを並べる。当たれば「大正解!」の大きな文字が大写しになる。

 それを見守るほかの生徒たちは、イライラしたり、不安な表情を浮かべたり。先生の指示に従い、生徒たちは自分たちの順番が来ると素早く前に並んで交替で画面の文字を指で押す。大急ぎで答えて次の子にバトンタッチする様子は、まるでテレビ番組「笑っていいとも!」の曜日対抗ゲームを見ているようだ。

 子どもたちは、「ゲーム感覚」でスピーディに進められる授業に気持ちをぐっと集中させる。ぼんやり外を眺めたり、ほかのことをしている生徒は1人もいない。ある生徒がまちがった回答をすると、ほかの生徒からは「ちがう、ちがう」「あー!」と、声があがる。

授業に集中する生徒たち

 授業は「ふわふわアルファベット」だけでは終わらない。スクリーンには「え」という感嘆詞が映されて、次いで「喜んで」「驚いて」「がっかりして」「信じられずに」と、感情を現わす言葉が映される。数秒間隔で切り替わる言葉に、生徒たちは「えー!」「えっ!」「え…」「え?」と、顔の表情と肩の動作まで加えながら感情表現を繰り返す。

 次は教科書を開いて許先生とともにクラス全員で「草枕」(夏目漱石作)を音読する。再びスクリーンには前文が映し出されて全員で音読。許先生が指示棒を動かすと、スクリーンにはかわいいキャラクターのアイコンが登場して、本文の部分部分を見えないように隠す。生徒たちは隠された部分を暗誦で朗読する。「先生、もっとたくさん隠して!」との要望に、許先生はアイコンをさらに動かす。

 「もっと! もっと!」

 子どもたちの要求は止まることを知らない。ついには全文が消されて、生徒たちは楽しそうに暗誦を始めた。教室には子どもたちの声が朗々と響いた。

学ぶ姿勢

授業の終わりは「1分かるた」。生徒たちは必死にかるたを取る

 許先生がパソコンを使った特徴的な授業をするようになったのは、授業の研究をする日本の教師たちの集いに参加したのがきっかけだった。

 「TOSS(Teacher`s Organization of Skill Sharing)のこの地域の集いに参加した。朝鮮学校の教員たちが授業研究の成果を発表する場が中央的には年に一度しかない実情の中で、たとえ教科書は違っても教える内容は一緒という思いで日本の教師たちの中に飛び込んだ」

 そこでは、日本の20代の教師たちが授業の研究に熱を傾けていた。

 「朝鮮学校は日本の広い地域に1つ、2つと点在していて、都市部以外では、毎日忙しいスケジュールをこなしている先生たちが日常的に授業に対する情報を交換して互いに刺激を受け合う場は少ない。TOSSに参加して朝鮮学校でも利用できる内容を学んだ。日本の学校に通う子どもたちがこのような斬新な授業を受けているのに、同じ時代に学んでいる朝鮮学校の生徒たちにも後れをとらない授業をしたかった」

 許先生が日本の教師から学んだパソコンを利用した授業は、瞬く間に子どもたちの心をつかんだ。

人気No.1

 現在、同校初級部の生徒たちの中で許先生は「人気がある先生No.1」で知られているばかりか、「授業が楽しい先生No.1」「話がおもしろい先生No.1」「わが校で美男だと思われる先生No.1」に選ばれている。また、その授業の中でもとくに人気のあるのが理科、日本語、体育だと生徒たちは言う。

 生徒たちの褒め言葉に笑みを浮かべながら許先生は、「教師はいくら忙しくても本を読み、外に出て人とも会いながら自己修養を積まなければならない」と強調する。「何といっても教師は授業が上手でなければならない。日常的に授業がうまくいっていれば生徒たちは満足して教師を慕うようになり、生徒たちの反応がよくなればクラスの雰囲気が良くなって、自然に学父母たちとの関係もよくなる」。

 許先生の授業は生徒たちの中で人気が高い。しかし、パソコンを使った授業は財政難にあえぐ朝鮮学校では、すべての学校、すべての教室で行われるには難しい現状が横たわっている。

 「わが校でもこの授業はまだ試験的な段階。徐々に一般化していけたら、との希望はあるけど、設備をそろえるためには財政的な支えがないと…」

 まずは自己負担でパソコンを利用した授業を始めたという許先生。授業のほかにも「少年団の日」に行われるクイズや朝鮮語の学習など独自の資料も作成した。

 「私たちはこれまで何十年も運動をしてきた。1世たちから2世、3世、4世に至るまで厳しい状況の中でも代を継ぎ、日本の地で歴史を刻みながら暮してきた。資料はいくらでもある。これからはその資料を使いながら、21世紀に育つ子どもたちが、楽しく私たちの歴史と民族の風習、国を愛する伝統、生きた知識を身につけられたらと考えている。そして、日本各地で苦労している朝鮮学校の先生たちと、子どもたちを朝鮮学校に通わせている学父母たちのためにこうした資料をインターネット上で共有できるようにして、全国の朝鮮学校で利用できるようにしていきたい。新任教員もベテラン教員も、誰もが利用できるよう環境を整えていきたい」と、許先生は抱負を語ってくれた。(金潤順記者)

※1978年生まれ。姫路朝鮮初級学校、西播朝鮮初中級学校(中級部)、神戸朝鮮高級学校、朝鮮大学校師範教育学部3年制卒業。2000年から西脇朝鮮初級学校、02年から西播朝鮮初中級学校で教鞭を取る。05年総連各学校教員たちの教育研究大会で論文賞を受賞。同年、全国マルチメディア学習教材活用コンテスト(主催=国立大学法人東京学芸大学、独立行政法人メディア教育開発センター)優秀賞受賞。現在、初級部3年生担任。

[朝鮮新報 2006.4.8]