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〈教室で〉 埼玉初中 理科 朴洋子先生

実験で身につける「自然観」

「葉には水の通る道がある」と朴先生

 埼玉県大宮市の埼玉朝鮮初中級学校初級部5年生。

 前回の授業で彼らは、顕微鏡を使って植物の葉の「気孔」を観察した。葉が気孔を通して「呼吸」し、水分、温度調節をすること、赤いインクを垂らした液体に根を浸けると、根から吸収された水分が幹を通り、葉にとどく様子がわかることなどを観察した。

 朴洋子先生(47)は、実験道具を前に「今日の主人公はツバキの葉っぱです」と、児童たちの興味を引き付けた。「葉っぱには根から吸い上げた水分が通る『道』があります。今日はその『道』を目で見てみましょう」。

興味そそる実験

朴先生の説明に興味津々

 水酸化ナトリウム水溶液に浸けたツバキの葉は弱火にかけられ、すでにビーカーの中で茶色に変色している。朴先生は各班ごとに四角いバットとピンセット、歯ブラシ、新聞紙を与え、葉を水に浸してよく洗うよう指示した。その後はピンセットで新聞紙の上に葉を広げ、歯ブラシで軽く叩いて葉肉を取る。この作業を繰り返すと、葉にある「筋」だけがきれいに残る。

 児童たちは思い思いの姿勢で作業に打ち込んでいる。「ひゃ〜っ! 破けたぁ〜〜〜!」「先生、きれいにできました!」と、その反応はさまざまだ。

 朴先生は各班を見回りながら、「ブラシでゴシゴシこすらずに、トントンと葉と直角になるよう軽く叩くの。そうしないと破れるでしょ」と注意をする。45分はあっという間に過ぎていく。

 「葉には水が通る道があります。みなさんは絵を描くとき葉に線を描くでしょう? あれは肉眼で見ることができる太い筋ですが、植物の葉には肉眼では見ることのできない細かい筋が網目のように張り巡らされています。これで水分が葉の隅々まで行きわたるのです。この水分が何に使われるかは次の授業で学びます」

 実験を終えた児童たちは葉脈標本のしおりを手に、「葉っぱに水が通る道がこんなにたくさんあるとは知らなかった」(洪大樹くん)、「実験は楽しかった。しおりにして手元に残せるのがうれしい」(金美優さん)などと話していた。

広がる「理科の世界」

実験に集中する生徒たち

 朴先生は「初級部の理科は楽しみながら『自然観』を身につけることが一番」と考える。「よく見て、細部を観察し、五感を使って、100%体験させる。それをより科学的、論理的な思考に結びつけていくのは中級部になってから。6年生までは楽しい、おもしろいという体験を論理的な思考につなげるための準備段階。実験は欠かせない」。

 子どもの頃から「理科的なものの考え方」が好きだったという朴先生。中3のときの担任が物理の教師で、「フレミングの法則」に関する実験をしてとても感動したのを今でも忘れない。「そのとき、私も物理を専攻したいと強く思った。教師を目指すようになったのはあのときから」。

 朝大理学部を卒業し、山口朝高に赴任した。「新任の女性教師とあって、当時は生徒になめられっぱなし。何のための授業なのか? と自問を繰り返し、生徒の興味を引きつける工夫を重ねた」。

 朴先生は「授業の主人公は生徒」と捉えている。そして、生徒が授業に食いつくまで、とことんどうすればいいのか工夫する。「私自身、理科がほかのどの科目よりも好き。理科ほど生活に近くおもしろい科目はないし、生徒たちもいずれは子どもを育てるときがくると思う。その時、子どもの疑問に答えられるよう、授業ではP(ポイント)、Q(クエスチョン)、R(リサーチ)、I(インプレッション)を押さえるよう心がけている」。

 朴先生が見せてくれた6年生のあるノートには、授業に関する「感想」が書かれていた。また、中2のある生徒のノートには自ら疑問点を提示し、それに関する調査内容とその結果が書き込まれていた。

 「生徒自身が自ら疑問に思うことを調査し、結果を記す。これを1年間継続すると変化が現れる。勉強は自分のためにするもの。先生が代わったからといって、勉強に対する姿勢を変えるのは良くないことだと、生徒には根気よく教えている」

 ノートは朴先生と生徒をつなぐ「交換日記」でもある。そこには、広がりつつある「理科の世界」がつまっていた。

授業研究

 朴先生は教師として、自身を厳しく見つめ、授業力を高める努力を惜しまない。書籍やインターネットで資料を読み込み、朝大はじめ、各地朝鮮学校の先生たちと連携を深めている。朴先生の話によると、朝鮮学校の初、中、高級部理科教師たちのネットワークは全国を網羅し、随時電子メールなどで連絡を取り合っており、授業に関する悩みを1人で抱え込まないようサポート体制が整えられているという。また、実験指導書、教授案などをネット上にアップして、それらを複数の教員たちがアドバイスすることによってより充実させる取り組みが行われている。ほかにも昨年の夏休みには90人近い理科教員たちが2泊3日にかけて合宿を行い、寝食を共にしながら授業研究に励んだ。

 最近では「教育者として後進の教育にも力を注ぎたい」と考える朴先生。「自分が持ちうる資料をすべて与えても惜しくはない。教育は綿々と受け継がれるものだから」と強く語った。(金潤順記者) 

※1958年生まれ。堺初級、南大阪初中、大阪朝高、朝大理学部卒業。山口朝高、東大阪中級、南大阪初中、川崎初中、南武初級、埼玉初中で理科を教える。中級部理科教科書編さん委員、中央教研理科分科分科長、89年模範教授者。現在、埼玉初中で初、中級部の理科担当。6年2組担任。

[朝鮮新報 2006.8.19]