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〈教室で〉 埼玉朝鮮幼稚園 李ウネ先生

園児と楽しいひととき

 午前10時を少し過ぎた頃、「あんにょんはせよ!」「あんにょんはせよ!」と、園児たちが元気いっぱい登園してきた。埼玉県川口市の埼玉朝鮮幼稚園。送迎用のバスの到着とともに園内は一気に活気を帯びる。

 来客の姿がめずらしいのか、園児たちは何度も応接室の近くまでやってきては「あんにょんはせよ!」を繰り返す。ひとり去ってはまたひとりとやってきて、楽しそうに「クックック」と笑いながら「あんにょんはせよ!」を反復する。

 幼稚園の入り口には、色とりどりの色紙で作られた星、チョゴリ、飛行機が吊るされていた。11時。あいにくの雨のため、園庭に出ることができず、園児たちは遊戯室に集って体操をした。手拍子に合わせて、片足ずつ上げたり、下げたり、上半身を前に曲げたり、後ろへそらしたり。「ヘバラギ体操」の音楽に合わせてじんわりと汗をかきながら思いっきり体を動かした。

 体操が終わると、園児たちに向かって先生は朝鮮語で話しかけた。

 先生−「今日は、何がふっていますか?」

 園児−「雨がふっています!」

 先生−「どのようにふっていますか?」

 園児−「ぽつぽつとふっています!」「ジャージャーとふっています!」

 園児たちは知ってるかぎりの朝鮮語で雨のふり方を答えていた。

個性的なお絵かき

今日の日付を朝鮮語で話す

 李ウネ先生(25)が受け持つ「つつじ組」(5〜6歳児クラス)には19人(男児13、女児6人)の園児がいる。この日は先週、大宮第2公園の池で釣ってきたザリガニの絵を描いた。

 ザリガニは、タコ糸の先におつまみ用のイカをつけて、1人が1匹以上釣り上げたもの。バケツに入ったザリガニをのぞき込んでは手でつかみ、あちこち観察してから画用紙に向かう。

 「色や形をよく見てね。足は何本? ひげはある?」と李先生。女児たちの「キャッ」「キャッ」という悲鳴に、「さわれない子にはさわれる子がよく見せてあげて」とつけ加える。

 園児たちは遊戯室の床に画用紙を広げて、クレヨンとサインペンを使い、熱心に絵を描いていた。

 金龍秀、文炯晶、田昌浩くんらは3人仲良く並んで、水面に青い空、そして、丸い太陽と、似たような絵を描いていた。かんじんなザリガニは、龍秀くんが大小2匹、炯晶くんが大1匹に中2匹、昌浩くんは大1匹、中2匹、小2匹。

「残さず食べます!」

 梁景喜ちゃんの絵は、男女2匹のザリガニがにこやかに笑っている。女の子のザリガニにはハートの髪飾りがついている。

 高暎莉ちゃんの絵は、ザリガニと女の子が仲良く手をつないでいる。

 全志原くんの絵は、茶色のザリガニが4匹、道には車が走っている。最初は1つだった太陽が、しばらくしてもう一度見に行ったときには8つに増えていた。よほど天気がよかったのだろう。

 申泰秀くんは画用紙いっぱいにダイナミックなザリガニを描き、李尚龍くんはなぜか四角いカニを描いていた。それを見た女の子が「テレビみたい」と言うと、尚龍くんははずかしそうに笑っていた。

「ウリマル模範生」

 李先生は、埼玉幼稚園の特徴を「子どもたちの『生きる力』を育てること」と強調する。同園では年間を通して「栽培教育」を行っており、「はやく育てよ畑」ではサンチュなどの野菜を育てている。収穫期に合わせて開かれる「楽しい食事会」では、畑で取れた野菜を食べる。「自分で世話した野菜だけに、周りのお友だちの目もあって、ほどんどの子どもが好き嫌いせずに食べてます」と李先生。

 子どもが好きで、「単純な憧れ」から幼稚園の教師を目指したという彼女だが、教育現場で責任ある立場に立ってみて、「あらためてその重要性について考えた」と言う。「子どもの頭はとても柔軟で、まるでスポンジのようになんでもかんでも吸収してしまう。子どもたちの『なぜ?』という疑問に答えるため正確な知識を持たなくてはならないし、朝鮮語の習得も驚くほど速いので、私自身、お手本になれるよう、日々、自分を見つめなおしている」。

 同園では園児らを対象に母国語教育が行われており、先生たちは基本的に朝鮮語で園児に接している。「遊ぼう」「食べよう」「おしっこしに行こう」などの生活用語は3〜4歳児クラスになるとほどんど使えるようになる。李先生の話によると、1週間に1度、各クラスで1人ずつ「ウリマル(朝鮮語)模範生」が表彰されるため、園児らはそれを目標にがんばっている。「子どもは褒められるともっとがんばる。年間を通して、すべての園児が『模範生』として表彰される」(李先生)

年長さんの誇り

 同園では、年上の子が年下の子の面倒を見るシステムも組まれており、「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」たちが、「弟」「妹」の着替えを手伝ったり、園になじめず泣いているのをなぐさめたりしている。「大きい子たちはこれによって責任感が芽生えたり、自信がついたりするようだ。泣いている『タンポポ組(3〜4歳児クラス)』の子をみつけては、『オンマのところにすぐ帰れるからねぇ〜』なんて言いながら抱きしめてあげたり、『ごはん食べたらかえろうねぇ〜』と、先生たちのまねをしたり。幼い頃から困っている人や、自分より弱い人を助けてあげる気持ちを持つことはとても大切。園内ではこうしたかわいらしい子どもたちの微笑ましい姿があちこちで見られる」(李先生)。

 最年長の「つつじ組」になると、子どもたちの憧れの「お泊り保育」も実施される。「ほうせんか組(4〜5歳児クラス)」の子どもたちは、「つつじ組」になる日を心待ちにしているという。(金潤順記者)

※1981年生まれ。埼玉朝鮮初中級学校、東京朝鮮中高級学校、朝鮮大学校教育学部保育科卒業。埼玉朝鮮幼稚班「つつじ組」担任。第17回「総連各級学校教員の教育研究大会」論文賞受賞。

[朝鮮新報 2006.8.26]