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国連人権委特別報告者 朝鮮学校への差別的処遇根絶を 日本政府に勧告

朝鮮学校生徒への暴力、無年金、ウトロ問題なども

 国連人権委員会が任命した特別報告者のドゥドゥ・ディエン氏(セネガル出身)による初の日本公式訪問についての報告書『人種主義、人種差別、外国人嫌悪、関連する不寛容の現代的諸形態に関する特別報告者ドゥドゥ・ディエンの報告書:日本への公式訪問』が国連に提出された。昨年の日本滞在期間、京都朝鮮中高級学校や京都・ウトロをはじめ各地で実地調査を行いまとめた報告書は、日本政府に対し、人種差別と外国人嫌悪が存在すること、またそれらの歴史的、文化的根本原因も正式かつ公式に認めるよう求めたうえで、朝鮮学校に対する差別の撤廃などを勧告している。

社会、歴史的文脈まで包括的に

京都中高の授業を参加するディエン氏(後列中央、05年7月)

 今回報告書を提出したディエン氏は、昨年7月3日から11日まで大阪、京都、東京、北海道、愛知を訪問した。京都では京都朝鮮中高級学校を訪問、生徒の授業や公演を参観後、保護者や学校関係者と面談し、日本政府による朝鮮学校に対する差別の実態を聞き取り調査した。

 またウトロ(京都府宇治市)地域を視察したディエン氏は、戦後何の補償も受けず劣悪な環境のなかで必死に生きてきた在日同胞の姿を目の当たりにし、「ウトロにショックを受けた」と語っている。

 ディエン氏は、日本の外務副大臣をはじめ関連省庁担当者、大阪、京都、東京、札幌の自治体関係者らと面会し、人権協会を含む多くの当事者団体との会合も開いた。

 国連人権委員会の特別報告者が日本の人権問題について報告書を作成したのは、10年前のラディカ・クマラスワミ「女性に対する暴力特別報告者」による「日本軍『慰安婦』に関する報告書」(1996年)以来二度目のことだ。

 今回の報告書において特筆すべきは、「日本には人種差別と外国人嫌悪が確かに存在する」と明言したうえで、日本政府に対し、人種差別が存在することを認めるよう迫っていることだ。

 私たち在日同胞は解放直後からこれまで、日本政府による差別と排除によってその存在を否定され、周辺化され続けてきた。ゆえに国際社会において「不可視の存在」であった在日朝鮮人であるが、毎年国連欧州本部(スイス、ジュネーブ)で開かれてきた国連人権委員会や小委員会、日本政府報告書を審査した2001年3月の人種差別撤廃委員会、同年8月に南アフリカのダーバンで開かれた反人種差別世界会議といった国際会議に参加し、差別の実態を暴露しながらその是正を求める活動を展開してきた。

 このような活動によって国際社会に徐々に、かつ確実に認識されつつあった在日朝鮮人に対する日本政府の差別的処遇の実態を、法的側面にとどまらず社会的、歴史的文脈にまで踏み込んで包括的に捉えた初めての国連文書が本報告書だと言える。

報告書、活動に活かし

 報告書は、「序文」「T.一般的背景」「U.公的機関の政治的、法的戦略」「V.関係する集団による自らの状況の提示」「W.特別報告者による分析と評価」「X.勧告」から構成されている。在日同胞団体や関係者の生の声を聞き、情報提供を受けその被害の実情をまとめたV・D項第57段落においては、「朝鮮学校には日本政府からの財政的援助がないため、親たちに非常に重い負担がかかっている」「親が朝鮮学校に寄付をしても免税措置の対象とされない」と明記されている。そのうえで、報告書は日本政府に対し次のように勧告している。

 「日本政府は、朝鮮学校と他の外国人学校との間にある、人種差別とみなすことのできる処遇の違いを根絶するために必要なあらゆる手段を講じるべきである。とくに朝鮮学校は、他の外国人学校と同等に、また日本に朝鮮人が存在することの特別な歴史的状況を考慮すればなおさら、助成金その他の財政的援助を受け取れるようにされるべきであり、また朝鮮学校の卒業証明書が大学入学試験受験資格として認められるべきである」(報告書X第89段落、日本語訳=筆者)

 続いて報告書は、朝鮮学校生徒に対する差別と暴力を予防し、加害者を処罰すること、国民年金から排除されている朝鮮人高齢者を救済すること、ウトロに居住する同胞の生活と居住を保障する措置をとることを日本政府に求めている。

 「なぜ朝鮮人は日本に存在するのか」「朝鮮人はどのような思いをもって朝鮮学校を設立したのか」「ウトロ地域はどのようにして形成されたのか」といった歴史的な事情を考慮し人種差別的処遇改善のための必要なあらゆる手段を講じるよう日本政府に求めた勧告の意義は大きい。

 日本社会は今、人種差別や外国人排斥を促進し助長する政策が執られ、人種差別に基づく事件も多数発生している。私たち在日同胞を取り巻く環境も以前にも増して厳しいものとなっている。そのような動きに抗し在日同胞の既得権を守り民族教育を発展させていくうえで、ディエン報告書は有効な武器となりうるものである。報告書をしっかりと研究し、私たち自身の運動の活性化と日本社会にはびこる在日同胞に対する差別の撤廃へとつなげていきたい。(宋恵淑、在日本朝鮮人人権協会)

日本政府への勧告内容

 ・日本社会における人種差別、外国人嫌悪の存在と、その歴史的、文化的根本原因を認め、これらと闘う政治的意思を表明すべきだ。

・緊急事項として、憲法および日本が締約国となっている国際文書の規定を国内法体制内で実施するよう、人種主義、差別、外国人嫌悪を禁止する国内法の採択に取り組むべきだ。

 ・朝鮮学校と他の外国人学校との間にある処遇の違いを根絶するために必要なあらゆる手段を講じるべきだ。

 ・コリアンの子どもたちに対する人種主義的動機に基づく暴力行為をやめさせ、断固として制裁するための強力な予防措置、罰則措置をとるべきだ。

 ・国籍条項が存在したことにより年金が給付されていないコリアンに対する救済措置をとるべきだ。

 ・ウトロのコリアン住民がこの土地に住み続ける権利を認めるための適切な措置をとるべきだ。

 (報告書の「X.勧告」のなかから抜粋、日本語訳=反差別国際運動日本委員会、整理=編集局)

報告書全文は下記サイトで入手可能。

 英語原文=http://www.ohchr.org/english/bodies/chr/sessions/62/listdocs.htm(I
tem6の文書記号E/CN.4/2006/16/Add.2)

 日本語訳(反差別国際運動)=http://www.imadr.org/japan/index.html

[朝鮮新報 2006.3.4]