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〈拉致問題を問う〜対話と圧力〜A〉 自己矛盾の経済制裁

 経済制裁は緩慢な戦争である。それだけだとあまりにもなまなましい脅迫と破壊と殺りくの志向を少しとりつくろっただけの表現でしかない。このような方法で拉致問題を解決することができるだろうか。

 不可能だ。逆に拉致問題は解決とはほど遠いものとなり、今日の事態をよりいっそうこじらせ、はては歴史の闇に放り込んでしまうに違いない。つまり、「経済制裁による拉致問題解決」は激しい自己矛盾なのだ。おまけに、次の現状から目をそらすわけにはいかない。

 朝鮮民主主義人民共和国の05年の貿易総額は約40億6000万ドルといわれるが(韓国との交易を含む)、とりあえずその数字を参考にすると、うち対中国が39%を、対韓国が26%を占め、対日本は4.7%。日本シェアは過去4年間で13ポイントも減少している(01年=4億7400万ドル→05年=1億9000万ドル)。

 さて、この時点で日本が「4.7%」をゼロにした場合、朝鮮は打撃を受けるだろうか。仮に朝鮮が打撃を受けるとしても、しかしそれは経済制裁を声高に叫ぶ者たちの期待≠謔閧ヘるかに小さいと推測される。言い換えれば、経済制裁はまことにおそまつな夢想。むしろ問題解決の大きな障害として立ちはだかるだけなのだ。

 しかし、夢想が跋扈している。自民党の最高幹部のひとりは「経済制裁をやらざるをえない」と強調する。また、外務官僚は「圧力を議論することが圧力」などと説明する。利権獲得や保身に明け暮れている現実的な彼らが「北朝鮮」に対するや、ニュアンスの違いがあるものの、こぞって 夢見る人≠ノ変貌する光景は滑稽を超えて醜悪だ。とはいえ、その変貌には理由がある。ようするに彼らは拉致問題を国家改造劇の促進材料のひとつにしてきたのだった。拉致問題の日本問題へのすり替えである。

 その手口はじつに姑息だ。たとえば04年に衆議院審議をわずか2日間しか行わず息せききって成立させた対朝鮮経済制裁法の端緒、「改正外国為替及び外国貿易法(外為法)」こそとんでもないしろものだった。当時、自由法曹団がこう指摘した。

 「外為法本来の性格を根本から変え、いわば通商経済法を有事法(戦時法)に変容させるものである」

 日本政府は、同様の手口をたとえば、きびすを接して成立させた特定船舶入港禁止法、改正油濁損害賠償保障法などでも披露し、さらに在日本朝鮮人総聯合会の関連施設に対する課税化や執ような根拠なき家宅捜索などを展開、あまつさえ朝鮮への保険付き郵便物の検査強化とか中古車、中古タイヤ輸出の監視強化といったたぐいの明白な嫌がらせ行為を連綿と、かつあからさまに行ってもいる。ここにはもう拉致問題解決という視点がない。

 なぜ、かくもあさましい姿になったのか。

 04年に戻ろう。日本政府は、改正外為法と特定外国船舶入港禁止法を成立させつつ、ひたすら「危険な北朝鮮」を煽りながら何をしたのか。日本国民を統御する国民保護法や外国船臨検法(外国軍用品等海上輸送規正法)など有事関連7法をあっさりと通過させたのだった。また、今国会では与野党があたかも競い合うように、自身の足下に広がる数々の人権蹂躙問題を脇へ押しやって「北朝鮮人権法案」を片手にかざしつつ、なんと共謀罪成立や教育基本法改正にいそしんでいる。

 このように日本は、「危険な北朝鮮(および危険な中国)」がなくては国家を運営していくことのできない奇怪きわまりない体質(仕組み)になってしまったとしか考えられないのだが、その背をしきりに突いている者、すなわち米国を見落とすわけにはいかない。

 ブッシュ米政権に連なるシンクタンク・ヘリテージ財団(ワシントン)が05年7月、日米安全保障に関する政策提言を行った。彼らはまず日本が「より積極的な防衛政策」を選択するようになったことを賞賛。その原因として国際テロや中国、朝鮮の脅威などを指摘する。で、彼らはブッシュ政権が日本に対し「MD(ミサイル防衛)の強化、憲法9条の見直し、集団的自衛権の行使」などをよりいっそう奨励するよう勧告している。これについて、「北朝鮮がミサイル発射」などのまさにガセネタを折に触れ平然と発信し続けているブッシュ政権に否応はない。

 たとえばそうした動きが今春の日米安全保障協議委員会(2+2)の合意となり、とくに日本側が戦争遂行の「新たな段階」へ突入したわけだが、まさに真剣に直視しなければならないのは、ここへ至るまでの節々において日本がテコの役割を拉致問題に担わさせてきた事実である。

 としたら、拉致問題はこれからどうなるのか。4月下旬に日米両政府が演出したブッシュ大統領と拉致被害者の家族の面会場面がその回答を饒舌に語っている。(野田峯雄、ジャーナリスト)

[朝鮮新報 2006.5.15]