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〈ブッシュ政権 軍事再編戦略の危険性−中〉 戦時作戦統制権返還の狙いと背景

 前号でも述べたように、米当局は2009年にも戦時作戦統制権を返還するという。これまで戦時作戦統制権の保持に固執してきた米側がなぜその早期返還に応じようとしているのだろうか。それは、戦時作戦統制権の返還が自らの戦略的利害関係に合致しているからで、次のような要因が考えられる。

米軍再編と「戦略的柔軟性」

未来型の迅速機動軍として改編された米第2師団「第1重武装機械化戦闘旅団」(05年6月、京畿道キャンプ・ケイシーでの創設式) [写真=聯合ニュース]

 まず、冷戦後、とくには01年の9.11同時多発テロ以降本格化した米軍の世界的再編との関連である。従来の重武装した陸軍主体の前進配備戦力を縮小し、代わりに海空軍主体に再編し先端(ハイテク)化、軽量化、効率化、機動化した統合軍を96時間以内に世界のいたるところに投入する先制攻撃、空からは遠距離の誘導ミサイル攻撃によって敵地へのピンポイント攻撃を可能にする体制の構築である。

 その一環として、南朝鮮でも04年7月、重武装して軍事境界線一帯に配置されていた米第2師団と龍山基地(ソウル、米軍司令部)をソウル南方70キロの平沢へ08年までに移転することで合意した。これで米軍は1万2500人が削減されるが、逆に米軍の軍事力は2〜3倍に強化されるという。110億ドルの巨費が投入され、軽量化、先端化された迅速対応旅団(SBCT)が新設され、地域統合軍として改編される。50億ドルに及ぶ移転費も南側が負担する。

 海に面した平沢は、烏山米空軍基地とともに空海軍統合基地となりアジア最大の作戦拠点となる。烏山の米第7空軍は、従来の通常爆弾から人工衛星誘導の統合直撃爆弾(スマート爆弾)に転換し、無人偵察機の導入、最新型対空ミサイルPAC3(200基)の配備も進んでいる。

 そこへ「戦略的柔軟性」問題が加わった。これは駐南朝鮮米軍が朝鮮半島以外へも迅速に投入できるという内容で、さる1月に南朝鮮側が同意した。駐南朝鮮米軍は平沢移転によって、対北先制攻撃時には北からの第1撃を避けたあと、空からのピンポイント攻撃や地上軍の迅速投入による制圧を図り、アジアの他の地域−たとえば台湾海峡有事などにも烏山・平沢基地(中国とは最も近い)から介入しようというのだ。「戦略的柔軟性」は、駐南朝鮮米軍の域外への出撃とともに帰還も可能であり、他地域の米軍の南への投入も可能というのが米軍の戦略であり立場である。

 早くも、04年には沖縄、ハワイの海兵遠征軍8000人を平沢港に投入して、事前配備、上陸演習を内容とする「フリーダム・バーナー」演習を行なった。

朝鮮半島への軍事関与持続狙う

 次は、戦時作戦統制権の還収後に予想される南朝鮮米国連合司令部解体の代わりに、「国連軍司令部」の旗を利用した「多国籍連合軍」を編成しようという企図である。

 国連軍司令官を兼ねているレオン・ラポート駐南朝鮮米軍司令官は昨年3月、「(朝鮮)国連軍の役割拡大」について米上院軍事委員会で証言した。さる3月には後任のバーウェル・ベル司令官も同委員会で証言、戦時作戦統制権の協議および移譲後の変化と関連して「国連軍司令部を実質的で恒久的な多国籍連合軍機構に発展させる」構想について述べた。

 彼はさらにさる6月、今度は「韓国軍への戦時作戦統制権の返還に伴い、未来の軍事作戦を指揮する新しい機構を開発する必要性」があり、「国連軍参戦国の任務を増やし、有事の作戦計画樹立と作戦に彼らを完璧に統合させる」ことについて強調した。

 こうした企図について南朝鮮の政界や市民団体、マスコミは「これは、戦時作戦統制権の返還後も南朝鮮軍を引き続き統制する手段として国連軍を利用しようとするもの」だと批判している。ハンギョレ新聞も「多国籍連合軍創設というのは、連合司令部の解体に備えて国連軍司令部の拡大、変化を狙うものだ」と指摘している。

 先にも述べたように「(朝鮮)国連軍司令部」とは、朝鮮代表の参加もなく、ソ連代表は欠席、中国代表権は蒋介石政権が行使するという状況下で、米国の圧倒的影響下の安保理決議による、国連憲章にもない多国籍連合軍の形をとったものだ。司令官も米大統領が任命し、その指揮下で活動し、現在の国連軍には米軍以外の外国軍隊は一人もいない。1975年には国連総会で51カ国の賛成により解体決議が採択されてもなお、強引に旗を降ろさないのが「国連軍司令部」の実体である。その国連軍の名分だけを変更して、引き続き南朝鮮軍をも統制しようというのである。

 このような発想で国連軍の性格を真似たのが、国連決議もないのにブッシュ政権がイラクに投入した「有志連合」(米国に従属する国々)による多国籍連合軍であり、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)による空中、海上での強制捜索、だ捕演習である。

「自主国防」は民族共助で

 盧武鉉政権は「自主国防」「アジア紛争への韓国の不介入」を掲げて戦時作戦統制権還収を推進、その後は双方が、それぞれ独自的な軍事統制権を持ち、「平時、戦時軍事協調本部」で調整を図り、「作戦計画5027」などの対北侵攻作戦計画は廃棄されるという。そしてさらに▼南朝鮮米国相互防衛条約の維持▼米軍駐留の継続及び増援軍派遣の保障▼米軍の情報支援維持▼戦争抑止力と共同配備体制の維持などによって「南朝鮮米国安保体制」には何の変化もなく、朝鮮半島の安保は維持されると強調する。

 しかしその一方では、2020年までに623兆ウォンという巨費を投入する「国防改革策」を進めている。すなわち、兵力は68万人から57万人に削減するが、7000トン級のイージス艦3隻、巡航ミサイル搭載の214型潜水艦9隻、F15戦闘機40機、空中早期警報管制機(AWACS)、アパッチ型攻撃ヘリ2個大隊、精密誘導爆弾、通信、偵察兼用の多目的衛星2〜3基などを導入する計画だ。軍事費は毎年11%の増額となる。米国は南に対して早くも米軍駐留費負担の増額と軍事力増強を迫り、新型対艦ミサイル「ハープン」の購入を要求してきている。

 そのため南朝鮮の軍事専門家や学識者などからは、「平時作戦統制権返還時の教訓」を生かして、戦時作戦統制権還収の時期を確定し、一切の留保を排除して「骨抜き」を封じ込める必要性を強調している。また平和統一団体や市民団体からは、民族の和解と協力の6.15時代の今、米国依存から抜け出し、何よりも米軍の永久駐留を許容している南朝鮮米国安保条約の変更ないし廃棄や米軍の撤退、南朝鮮軍の増強ではなく南北間の軍縮、さらには相互信頼に基づく軍事協調を進めなくてはならないと強調している。(韓桂玉、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授)

[朝鮮新報 2006.10.11]