〈本の紹介〉 「ソニョンが行く」 |
逆境にめげないしなやかな心 表紙を飾る、いまにもこぼれそうな満面の笑顔、タイトルの「ソニョンが行く」という文字までも元気と希望に満ちている。大阪で生まれ、脳性麻痺という重度の障害をもつ筆者金善栄(キム・ソニョン)さんの、21〜33歳までの記録が本書には記されている。 健常者にはわかろうとしてもわからない苦しみや悩みが、包み隠すことなく日誌形式で描かれている。 筆者の金さんは、意思表示をするにも文字盤が必要で、食事をとるにも人の手を借り何倍も時間がかかってしまう。 しかし、想像を絶するそんな苦労よりも、読者の胸を熱く打つのは、どんなにつらくても逃げることなく全身でぶつかり、絶えずチャレンジをあきらめない不屈の闘志だ。 金さんは障害者だけの劇団である「流星」に所属し、1992年9月の1カ月間ケニアに滞在した。厳しい練習と公演スケジュール、環境と食事の変化など、金さんは肉体的にも精神的にもとてもつらい思いをした。 一番つらかったのは人間関係だったが、それでも金さんは「ケニアは私にとって、すごくしんどかった旅でした。でも、いろんな人に会い、私の人生にとって大事な旅になりました」と振り返っている。 障害者と介助者の関係はとても難しい。障害者自立センターでの仲間との会話−障害者から見た介助者のイメージは、「王様になれるイメージ」「手足に仕えるイメージ」なのか、もしくは「人間関係のイメージ」なのか。 金さんは思う。「人間関係を大事にしたら、自分も人から大事にしてもらえるし、介助者がおらんピンチのときに介助者が自分の友だちとかを紹介してくれる。私はやっぱり介助者のイメージは人間関係≠フイメージや」。 人間関係が一番との金さんの思いは、あるときはやさしい気持ちで受け入れられ、またあるときは誤解と偏見を招くときもある。 それでも金さんは、絶望と悲しみを、勇気と喜びに変え、自分の信じる道を行く。 本書には、金さんの淡い恋物語もつづられ、心を和ませてくれる。 現在金さんは、親元から離れ自立生活を送っている。 ソニョンさんがこれからも、重い障害と民族的差別を笑顔で乗り越えるよう、熱いエールを送りたい。(成) 著者=金善栄、発行=特定非営利活動法人・日常生活支援ネットワーク、TEL&FAX=06・4396・9189、124ページ。 [朝鮮新報 2006.1.11] |