〈本の紹介〉 季刊 前夜6号 「特集 第3世界という経験」 |
いま、発売中の季刊雑誌「前夜」6号が、特集記事「第三世界という経験」を組んでいる。脱植民地化の過程で、さまざまな困難に直面し、いまなおその闘いの中にある第三世界を、反植民地主義の実践から捉えなおそうという試みである。 注目されるのは、一橋大学の鵜飼哲教授らによる「座談会」。ここで、紹介されているのが、現代トルコ最高の詩人と絶賛されるナーズム・ヒクメット(1902〜63)の「アフメッドに―クラーク将軍摩下の一兵士に」(訳、中本信幸)という詩である。その序章はこうだ。 アフメッドよ 朝鮮では雨がふりしきっているんだね/おまえは/おまえの小銃の銃口のあとから/泥の地面を/はっているのか/額の血管がはれあがり/眼にはもやがかかり/アフメッドよ/おまえはだれを殺しにゆくのか 朝鮮戦争に派遣されたトルコ軍部隊の兵士アフメッドにあてたこの詩は、再び、軍靴の音が近づきつつある現在の日本の状況をも激しく打ってやまない。 詩を解説した鵜飼教授はこう指摘している。「イスタンブールの街からさらわれるように朝鮮へ送られる青年に、朝鮮に行くなと呼びかけている。朝鮮で殺されている人々こそ、おまえの兄弟なんだ、と。この時代の共産主義知識人の国際主義の精神を表現した言葉だ。また、彼は日本が朝鮮を植民地支配していたことをしっかりふまえている。お前がこの戦争に荷担すれば、朝鮮で日本刀を振り回していた日本人の跡を継ぐことになると。彼がどのような歴史観でこの戦争を見ていたかがわかる。こうした言葉や詩は再発見されるべきだ」。 詩は米軍の朝鮮戦争時の信川虐殺や都市の破壊などの残虐な殺りくを告発し、「おまえたちはみんな人民の手で海のなかに叩きだされるだろう」と高らかにうたう。 本書には、集中新連載「現代日本の国家主義感覚」(中西新太郎)や「アイヌ文化を引き継ぐことと女性解放」(島崎直美)、ますますおもしろくなってくる連載「近現代を生きた朝鮮の女性たち」(宋連玉)などの読みものがギッシリ詰まっている。(影書房)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2006.1.23] |