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若きアーティストたち(34)

舞踊家・宋栄淑さん

 昨年、創立50周年を迎えた金剛山歌劇団の特別記念公演全国ツアーで音楽舞踊組曲「愛・故郷の四季」のヒロイン役をみごとに踊った。作品は、朝鮮の片田舎で暮らす若い男女の恋愛を四季の変化に重ねたもので、作品を通して朝鮮の風習も知ることができる。元々は120分の大作だが、日本公演ではこれを圧縮して50分にまとめた。

 歌劇団の看板舞踊家として舞台を飾る宋栄淑さん(30)は、「これまでスピーディなものや高いテクニックが要求される小作品が多かっただけに、朝鮮舞踊でラブストーリーをテーマに組曲を作るというのが新鮮だった」と話す。朝鮮舞踊を始めて20年になるが、ストーリー性のある50分の大作にチャレンジするのも、乙女の心の成長や葛藤といった繊細な心の変化を舞踊で表現するのも初めてだった。作品には、モダンバレエなどほかのジャンルの舞踊の要素も取り入れられ、宋さん自身、「朝鮮舞踊の柔軟性と新たな可能性を感じられた」と話す。演技では、視線の送り方や呼吸の仕方も研究した。

 また、公演中にとくに念を入れたのが舞台の掃除。春夏秋冬のうち「夏」の場面では、主人公の2人が土砂降りの中、裸足になって戯れるシーンがあるが、宋さんは以前、古い舞台で踊っているときに釘で足の裏を傷つけ、シューズが血で真っ赤に染まったことがある。掃除の甲斐あってか、昨年の全国ツアー中には「一度の事故もなく舞台に立てた」と安堵の笑みを浮かべる。

 24歳の時、祖国の新人舞踊家たちと肩を並べて「2.16芸術賞」個人コンクール舞踊部門2位入賞。昨年末には、朝鮮の「功勲俳優」の称号が与えられた。「常に誰かが前へ、前へとあと押ししてくれている。受賞の瞬間は、両親と、祖国の先生たち、歌劇団の先輩や同僚、これまで関わってきたたくさん人たちの顔が頭に浮かんだ」と話す。

 歌劇団の舞踊部長になって3年目になる。今では舞踊部全体のことをいろいろと考えるようになった。功勲俳優の名に恥じぬよう、自分自身、修練を重ねていきながらも、舞踊家たちがそれぞれの持ち味を生かして輝けるようにと頭を悩ませる。30日には新春特別舞踊公演「金剛山の舞姫たちVOL.3」を上演する。

 昨年のヒロイン役は、彼女にとって大きなステップになった。「朝鮮舞踊で表現できるものの幅が広がったように思うし、その柔軟性と可能性も実感できた。テクニックを磨くことを怠ってはならないが、いつかは朝鮮舞踊で外国の物語を演じるときがくるのかも…」と瞳を輝かせる。

 30代になり、少し「余裕」を持てるようにもなってきた。「自分でも不思議なのですが、20代の頃のようにがむしゃらにがんばるんじゃなくて、自然に役作りができるようになってきて」。

 自分が乾いてしまわないように、常に潤っていたい−との思いを抱いている。ストレスがたまると、料理をしてしっかり食事を摂り、読書や映画鑑賞などをして心を休める。「祖国の先生には、あなたの人間性が芸術性につながるのだから、常に精進なさいと言われ続けてきた。私たちの舞台は常に多くの人たちに支えられている。その意味を忘れずに、一つひとつの公演を大事にして、いつかは統一祖国で踊ってみたい」。

 明るい笑顔の奥には人知れず流してきた涙の数々もあったであろう。喜びや幸せ、悲しみや辛さを乗り越えて踊り続ける宋さんの胸には、「亡きハラボジ、ハルモニの故郷である済州島でも踊ってみたい」との夢が抱かれている。(金潤順記者)

※1975年生まれ。京都第1初級、京都中高卒業後、94年に金剛山歌劇団入団。00年朝鮮の「2.16芸術賞」個人コンクール舞踊部門2位入賞。「4月の春の祝典」(平壌)多数出演ほか、ソウル、釜山、全州でも公演。代表作品に独舞「長剣舞」「扇の舞」など。昨年末、朝鮮の「功勲俳優」が授与された。

[朝鮮新報 2006.1.25]