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〈本の紹介〉 沙也可 義に生きた降倭の将

 耳慣れないタイトルである。秀吉の朝鮮出兵が招いた凄惨な戦いの中で、祖国を捨て、朝鮮の民とともに生きる道を選んだ日本人鈴木孫次郎と雑賀衆の姿を描いた時代小説である。秀吉の朝鮮侵略の過程で、加藤清正軍に組み入れられ、朝鮮半島に渡った主人公が戦いの中で「この戦さに義はない」と降倭の将として日本軍と戦う物語。

 鉄砲の扱いが巧みだった沙也可一族は朝鮮に残って朝鮮軍に鉄砲の技術を伝達したこと、国内の乱や北方女真族の乱に参戦したこと、朝鮮国王から「両班」に列せられ、「金忠善」の名を賜ったことなど、今では多くの人々が知るようになった。しかし、この歴史的事実は、日本帝国主義の朝鮮統治時代においては、朝鮮総督府の内部で何度か、問題にされたという。彼らにとって秀吉の「朝鮮征伐」の折に日本軍を裏切った武将がいて朝鮮に帰化していたなど、受け入れがたい「事実」だった。

 慶尚北道の片田舎・友鹿洞に400年を暮らした「沙也可」の一族は、総督府によってその事績をすべて否定され、「慕夏堂文集」(=族譜をまとめた本)を偽物だと決めつけられ、「国賊、裏切り者の子孫」「朝鮮人以下の人間たち」などの罵詈雑言を浴びせられた。こうして、明治以来の日本の対外膨張政策によって「沙也可」の存在は、長く忘れ去られようとしていたが、戦後の歴史ブームによって再び脚光を浴びるようになったのだ。

 作者の江宮隆之氏は、陶磁器や工芸品を通して、朝鮮文化を日本に広く紹介した浅川巧を描いた「白磁の人」などの作品で知られている。朝・日間の歴史認識の深い溝を埋めるタイムリーの書である。(江宮隆之)(粉)

[朝鮮新報 2006.1.25]