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〈朝鮮と日本の詩人-3-〉 北原白秋

 むかしむかしその昔、/虎が煙草を吸うたころ、/長白山から鷲が来て、/岩の根もとの牡丹が咲いて、/そこへ黄色いおべべの唐子、/唐子ぽこぽこ水汲みまする。/水は清いし、深さは深し、/遠いお里で笛吹きまする。/月も出まする、夜もあけまする。/明けりゃ唐子の影もない、/鷲も牡丹も、陰もない。/そこで煙草の火も消えた。/虎がわっそりあくびした。/これでおしまい、はい、さようなら。

 北原白秋は詩のあらゆるジャンルで秀逸の作品を残した詩人として知られているが、そのうちでも童謡に素朴な芸術性を付与した意義は多大である。

 右に全文を引用した「虎の煙草」は1923年刊行の童謡集「花咲爺さん」に収められている。白秋はこの童謡について「朝鮮では、昔々ということを、虎が煙草を吸うた頃というそうである。そのおおまかさ、のろまさは私をして心から哄笑せしめる」と書いている。

 「虎の煙草」は白秋の童謡の特徴をよくあらわしている。それは、「長白山」(白)、「牡丹」(赤)、「おべべ」(黄色)というように色で詩を彩り、「ぽこぽこ」「わっそり」という擬音、擬態語で軽快なリズムをつくり出している点である。この童謡は、朝鮮に旅したことのある白秋が、朝鮮の民俗にほほえみを投げかけているかのようなあどけない小品である。

 しかし白秋は、50歳になった1936年末に、「大陸軍の歌」「皇軍行進曲」のような作品を中心とした国民歌謡集「躍進日本の歌」を刊行して侵略戦争への賛歌を公にし、ここに日本の朝鮮支配を謳歌する歌詞「輝け朝鮮」と「朝鮮専売歌」の2篇を収録。

 輝けこの土/国の御旗に/栄えよこの雲/高き青空/正々と敢えて進まん/内鮮一つなり、共に行けや

 この歌謡は、日本の代表的作曲家山田耕作が作曲し、朝鮮人に強制的に歌わせた。白秋、耕作のコンビがこうした思想的荒廃の歌をつくったという事実は、記憶にとどめるべきであろう。(卞宰洙、文芸評論家)

[朝鮮新報 2006.2.10]