「朝鮮名峰への旅」(18) 雪の白いつぶてが顔を打つブリザードのすさまじい威力 |
厳冬の白頭山の厳しさは、経験したものにしかわからない。あえて表現するならナタでぶった切られるような寒さとでもいおうか。決して、カミソリで切られた感じではない。もっと重量のある刃物で切られた感じを受ける。それが、12月から2月いっぱい、3カ月近くも続くのだからたまらない。 こうした厳寒期に、白頭山の中腹にある山小屋に2週間ほど泊まった。薪だけは豊富に積みあげてくれていたので、大助かりであった。さっそくオンドルに火をつけた。すると、天井裏に吹き込んだ雪が溶けて雨のように降ってきた。あわてて天井にロープをわたして、それに大きなビニールシートを広げ雪解けの水を防ぐ。 国境を警備する若者の力を借りて、2週間分の食料とカメラ機材をここまで運んできたのだが、それにしても山小屋まで来る道中のブリザードはすごかった。 無頭峰の宿舎を出発する時は、風こそ強いものの快晴の青空が広がっていた。それが樹林帯の背が低くなり、森林限界を抜けると、いきなり正面から雪が吹きつけてきた。白頭山おろしの強風がまともに吹きつけてくるのである。積もった雪だけでなく、火山性の砂粒を含んだ雪がビシビシと顔に当たる。気温は日中であってもマイナス20度より昇ることはない。外気に触れている皮膚は痛みを通りこして感覚がなくなってしまう。急いで目出帽の上からゴーグルをつけて皮膚を隠す。
ブリザードの中に入ったのだ。ブリザードは森林の大きい日本の山ではなかなか経験できない。知識では知っていたものの、実際にブリザードの中に入ってみると仰天する。すさまじい威力だ。身が引き締まる。風速15メートル以上の風が、息つく暇もなく正面から吹いてくる。雪が白いつぶてとなって飛んでくるため、前方はほとんど見えない。雪が積もっているため、地形を判断することすら難しい。頭上を見上げると、雪の飛んでいる高さはせいぜい4〜5メートルで、その上は真っ青な青空が広がっていた。とても不思議な体験であった。 やっとたどり着いた山小屋で、ようやくオンドルが暖まりはじめた。やれやれ、なんとか快適な山小屋生活が始まりそうだ、と思いながら、荷をといた。するとまたビックリだ。わずか数時間の行動にもかかわらず、水気のあるものすべてが氷りついてしまっていたのだ。凍結をまぬがれたのは、わずかに焼酎だけだった。 ガタガタと激しく小屋を揺さぶっていた風の音が静かになった。ブリザードがおさまりはじめたらしい。外に出る。雪原には、風がひっかいたような、風紋が深く刻まれていた。そして樹林帯では、風雪の名残が樹にたっぷりと残っていた。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2006.2.19] |