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若きアーティストたち(35)

指揮者・金正奉さん

 関西地方を中心に、オペラやオーケストラの指揮を手がける金正奉さん(30)。これまで「フィガロの結婚」「魔笛」「こうもり」「カルメン」などいろいろな曲を指揮してきた。

 「フリーで活動しているので、副指揮者としてアシスタント的な役割を果たすことも結構ある」と気さくに話す。

 オペラは、通常一つの作品を仕上げるのにだいたい2〜3カ月はかかるという。最初の段階では演技、歌は別々に練習、指導を受け、それを一つにまとめ上げる。

 金さんは副指揮者として、「歌」の指揮を取ることもあるという。

 「何事も下積みが肝心」と金さんは考える。そして、アマチュアオーケストラの指揮も取り、経験を一つずつ積み重ねてきた。「ヨーロッパに比べて日本はオペラやオーケストラの公演が少ないのが寂しい」。

 音楽との出会いは5歳のとき。ピアノ教室の先生をしていた伯母のもとでピアノを始めた。初級部高学年では器楽部に、中、高級部では吹奏楽部に所属した。

 朝高卒業後は音大へ−。男子生徒の中で音大志望者がほとんどいない中で、金さんは音楽の道に進むべく力強い一歩を踏み出した。

 音大では作曲を専攻した。指揮者を意識し始めたのは、作曲の勉強のためたくさんの音楽を聴きながら、自分ならこう表現したい、指揮はこう取るのにな…と思うようになったから。

 金さんは指揮者になるべく、同胞指揮者の金洪才氏の指導を受けた。金氏は神戸朝高卒業後、日本の音大を経て1978年にデビュー。日本の指揮者に与えられる賞としては最も権威あるものとされる斎藤秀雄賞と渡邉曉雄音楽基金音楽賞を受賞。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団の指揮者を歴任したほか、ベルリン滞在中には作曲家の尹伊桑氏の下で研鑽を積み、帰日後、尹氏の作品多数を日本初演し、尹氏から高く評価された人である。

 金氏から数々の技術的な手ほどきを受けて金さんは、西洋音楽に対する理解をよりいっそう深めたという。そして、西洋の常識、習慣、生活、文化を身を持って体得するためにウィーンへ短期留学。古いものを大切に守りつつ、新しいものにも目を向ける姿勢に心が打たれた。

 「指揮者や演奏家は、楽譜を通して今は亡き過去の名作曲家たちと対話をしている。指揮者の指先ひとつでオーケストラの演奏はどのようにも変わる。オペラの魅力はそこに声楽家や照明、衣装、大道具、小道具、音響など、より多くの人々が関わるというところにある。力を合わせて一つの作品を作り上げ、観客と一体になって拍手がわき起こったとき、その感動は何ものにも代えがたいものがある」

 今年はW杯イヤー。サッカーブームで音楽への関心よりも社会的にはサッカーで盛りあがる年でもある。

 「でも、音楽を通して世界の人と対話ができることも知ってほしい。外国に出て、朝鮮語で会話ができる相手と出会ったときは本当にうれしかった。心底朝鮮学校に行って良かったなと思えた」と笑顔を見せる。

 大きな抱負は語らない。「まだまだ音楽家として磨きをかけねば…」と厳しく自分を見つめていた。(金潤順記者)

 1975年生まれ。大阪朝鮮第4初級学校、東大阪朝鮮中級学校、大阪朝鮮高級学校、大阪音楽大学作曲科卒業。関西二期会ほか、アシスタント、副指揮としても活動。日本の楽団だけではなく、時には朝高吹奏楽部OB会の演奏会の指揮も取る。

[朝鮮新報 2006.2.22]