〈本の紹介〉 「遺言のつもりで」 |
売ったらあかん この詩は、本書の中に折り込められたしおりに印刷されている。なんと印象的な詩であろうか。そして、本の帯には「ありがとう、ありがとう…」の優しい文字が添えられている。本書はしなやかで、清らに生き続ける「美しい生活者」、岡部伊都子さんの一生を語り下ろしたもので、425ページの大著。 沖縄、アイヌ、朝鮮、被差別部落、ハンセン病…など、他の人々が避けてきた問題に真正面から格闘し、そこで苦しむ人々に寄り添って生きてきた岡部さんの揺るぎない姿勢と信念が、本書を骨太に貫く。 該博な知識と明快な論理性、鋭い感性。岡部さんのどの本にも汲めども尽きぬ話の泉がある。 人は、地べたを這いずり回るような日々を生きているが、生活の知恵に裏づけられた思想こそ強さを発揮する。岡部さんの魅力もここにある。自分が暮らす、生活のなかで鍛え上げた思想だからこそ曲がることなく光を放つのだ。 「自分が差別から解放されなんだら、あかん。人間やない。年齢差別からも解放されたい。男女差別からも、もちろん解放されたい。その人がたずさわっている仕事についても、さまざまな差別があるやろ。恥ずかしいよ、人間として。なかなか解放されない。解放のたたかいが、自分のなかで、でけてへん」と岡部さんは語る。 虐げられ、辱められるものへの愛情と、奢り侮るものへの怒りとエネルギーがひしひしと伝わってくる。 「著者が心から願っているように「これからを生きる若い方へ」ぜひ一読を勧めたい一冊。(岡部伊都子著、藤原書店、TEL 03・5272・0301)(粉) [朝鮮新報 2006.2.27] |