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2005年度第42回点字毎日文化賞 愼英弘さんの受賞祝う 盲目、国籍の壁越えた業績

 四天王寺国際仏教大学大学院教授の愼英弘さん(58)の「2005年度第42回点字毎日文化賞」受賞と「盲ろう者の自立と社会参加」出版の記念祝賀会が2月25日、大阪市内のホテルで行われた。会には愼夫妻と親族一同、 総連中央の高徳羽副議長兼同胞生活局長、総連、女性同盟大阪府本部関係者、在日本朝鮮人科学技術協会中央の宋才樹副会長や在日本朝鮮社会科学者協会大阪支部の会員、関係者ら50余人が参加した。「賞の受賞と本の出版は自分一人の力ではない。これからもいい仕事をしたいと思っているので支えてください」−。愼さんのあいさつに全員が心から拍手を送っていた。

お祝いのあいさつをする社協中央の李大熙顧問

 「点字毎日文化賞」は視覚障害者の文化と教育、福祉の向上に貢献した人を表彰するために毎年授与される賞で、学術関係では現在3人しか受賞していない。在日朝鮮人では愼さんが初の受賞となった。

 愼さんは視覚障害者、在日外国人という立場から長年、社会福祉の研究に取り組み、その成果を障害者の無年金問題や盲ろう者の社会参加など実践に生かしてきた。その功労が認められたもので、昨年11月1日、毎日新聞東京本社で授賞式が行われた。

 その功績を同胞たちで盛大に祝おうと関係者らが発起人となり、今回の祝賀会を催した。

 会ではまず愼さんの略歴と家族、親族らが紹介された。続いて関西学院大学講師で錦繍文庫顧問の朴鐘鳴さんが発起人を代表してあいさつ。朴さんは愼さんとの思い出を語りながら、数多くの論文や出版書物が非常に学問的でそこから人間に対する愛、民族に対する愛を強く感じると話し、歴史的にとても重みのある受賞となったと述べた。

 続いて社協中央の李大熙顧問と姜文圭・近畿大学名誉教授が祝辞を述べた。

 李さんは社協西日本本部時代に愼さんにとてもお世話になったと述べ、91年8月に愼さん家族らと祖国訪問をした時の写真を額に入れ手渡し、「愼さんは社会科学者や同胞たちの誇り。在日朝鮮人社会への貢献がどれだけ大きいかを実感する」と笑顔で語った。

愼さんのユーモアあふれるスピーチに笑顔の参加者ら

 姜さんは、「大学という所は業績がなければ昇格、昇進もない。正直、盲目の人がどのように業績を積み上げることができるのだろうと思っていた」。しかし、愼さんについて調べると数多くの社会活動をやってきたことにとても驚いたと述べ、「言うは易し、行うは難し。努力しないと続けられないことを証明してきた立派な学者。同じ朝鮮人の血を引く者として誇りに思う」と熱く語った。

 愼さんは東京生まれの在日2世。大阪市生野区に移住し、御幸森朝鮮人学校の小学3年時に失明した。盲学校の存在を知るまでの3年間を自宅で過ごした。

 ラジオの学校放送を聴きながら思った。「もっと自由に学びたい」。盲学校高等部卒業後は、大学に進学し勉学の道をひた走った。

 障害と国籍の2つのハンディを抱えながら正教員に採用されたのが50歳の時。花園大学社会福祉学部助教授となった。専門の近代朝鮮史研究や福祉関係の論文、著書を多数発表し、業績を積み上げ現在に至る。

 会でのあいさつは人々の心を惹きつけ、自身の境遇についていっさい不満を口にしない芯の強さを感じさせるものだった。

 「人生において挫折したことは一度もない。93年に家が全焼し、すべての文献が燃えてしまったがそれも苦とは思っていない。ただ一つしんどいことがあった。それは本を読めないということ。誰かに協力して読んでもらわなければならない。アルバイト、ボランティアの人たちに読んでもらうのだが、現在5人のボランティアの一人は70歳。そういう人たちの協力があったからこそ、今日までやってこれた」と謝辞を述べた。

 最後に「家族に支えられここまで来たことに感謝したい。でも、私が一番がんばっている」とユーモラスに語り、参加者らの笑いを誘った。そして今後、専門の歴史研究と近代日本における盲人の歴史もひも解く研究をしていきたいと意欲を語った。

 妻の掛橋芳子さんは、「夫は助けられたと言われるのが嫌いな人。特別なことはしていません」と言葉少なめに謙虚に語るが、傍で支えてきた一番のパートナーだ。

 女性同盟大阪府本部の黄河春顧問は、「愼先生の努力もさることながら、掛橋さんがいつも隣で心の目となってきた」と語り、愼教授と仲のいい社協大阪支部の李智仁顧問も「この世は一人で生きられない。奥さんがいて愼先生がいる。わがままでやりたい放題やっているのを支えているのが奥さんだ」と夫人の功績を称えていた。(金明c記者)

愼英弘さんの略歴:1947年、東京生まれ。在日朝鮮人2世。四天王寺国際仏教大学大学院人文社会学研究科教授。91年から在日外国人障害者の無年金問題に取り組み、自立生活支援センター・ピア大阪の運営委員長(99年)、大阪府盲ろう者福祉検討委員会委員長(00年)、在日同胞福祉連絡会代表(01年)を務める。著書に「近代朝鮮社会事業史研究−京城における方面委員制度の歴史的展開」(緑蔭書房、84年)、「視覚障害者に接するヒント」(解放出版社、97年)などがある。

[朝鮮新報 2006.2.28]