〈書評〉 「社会主義への主体的アプローチ」 |
今日、金をもうけたのが「勝ち組」で、それができないのは「負け組」だという浅薄な思考が幅をきかし、書店には社会主義についての書物が影を潜め、「北朝鮮たたき」のキワモノのみが目につく日本の状況の中で、はたして、それで良いのだろうかと、静かに抗議を提出しているような一冊の本が出版された。 それが表題の本であって、著者は朝鮮大学校の哲学講座長。チュチェ思想の研究と普及に活躍中の一人である。 本書は、三つの部分からなっている。 第一は、著者は歴史的に達成されたマルクス主義の成果に留意しつつ、かつてのソ連をはじめとする社会主義諸国の崩壊の中を耐え抜いた朝鮮の社会主義の生命力の秘密を、理論的にさぐり明らかにしようとしている。 何よりも朝鮮における社会主義論は、人間中心の世界観に基礎をおきながら、@世界における人間の地位と役割を明らかにし、A社会の本質、社会発展の法則性、およびB革命の主体にたいする観点と立場、革命と建設での根本的立場と原則などを解明している。 第二は、チュチェ思想に基づく社会主義論が展開されるのであるが、社会主義は人間の本性−自主性、創造性、意識性−を具現する社会であるため、その実現は歴史の必然であり、人類社会発展の方向性を示すものであるとする。 そして、社会主義建設の主体である人民大衆の役割の向上についての朝鮮の理論と実践の成果を要約している。 評者としては、社会主義の建設にあたって、主体の確立はもちろんのことであるが、とくに民族性を強調して「民族には、歴史的に形成された固有の文化と伝統があり、それを無視しては人民大衆の自主的要求と利益を正しく実現することができない」(120ページ)と指摘していることに深く同感したのである。 第三は、「21世紀と社会主義」として、著者は今後の社会主義運動を展望している。 ここでとくに、朝鮮における経済管理の改善が強調されていることが注目される。 そして「21世紀の人類的課題と社会主義」として、いま人類に提起されている大きな問題を社会主義と結びつけ展望するのである。 いずれも妥当な主張として首肯されるのであるが、すでに「解放」から60年を経過しており、社会主義建設の成果が人民生活の各部門に豊かに結実された具体像が紹介されても良い頃である。もちろん世界の超大国米国がたえず軍事的に朝鮮を強迫し経済建設を妨げ、日本も口実をもうけて植民地支配の補償と国交正常化を遅延させているが、朝鮮の社会主義の堅実な発展に期待を込め見守っているのは南と在日の同胞である。 本書は歯切れのよい文章で、簡潔にまとめられた朝鮮の社会主義概論として薦めたい。なお蛇足ではあるが社会科学の次の段階として、社会の具体的な小さな単位での「成功と失敗」の経験を、実証的に理論化して示しても良い時期に来ているのではないであろうか。(韓東成著、白峰社、TEL 03・3983・2312、FAX 03・3983・2307)(金哲央、朝鮮思想史研究者) [朝鮮新報 2006.3.10] |