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絵本「いつもみまもっているよ」を出版 福島県郡山市の主婦、徐貞美さん

 お月さま、どうして、人はあらそわなくちゃいけないの?

 どうして
 なかよくなれないかしら……。

爆撃の下の子どもを思う

徐貞美さん

 21世紀にはいっても、まだなくならない戦争の悲劇。9.11以降の世界は、ブッシュの主導する反テロ戦争−アフガン報復爆撃、侵攻、イラクへの侵略戦争、そして、自衛隊のイラク派兵、朝鮮半島への威嚇と挑発など拡大の一途をたどっている。

 世界中で荒れ狂う米国の残虐な暴力と大量殺戮が、瞬時に世界中にテレビを通じて伝えられる。その地獄絵をどう受け止めるかという問題は、人間としての想像力や抵抗の精神とおそらく一致する。

 美しいパステル画の絵本を刊行したばかりの福島県郡山市に暮らす主婦の徐貞美さん(36)さんも、3年前の米国によるイラク開戦の日、バクダッドへのミサイル攻撃をテレビで目撃した。

 「テレビの前では、初級部に上がったばかりの娘たちが、無心に遊んでいました。その落差にとても、心が痛みました。この子たちはこんなに楽しそうで、幸せなのに、爆撃の下にいる子どもたちは一体どうなるのか」と。

新風舎 TEL 03・5775・5040

 そう思うと、いてもたってもいられなくなって、その日から画用紙と鉛筆で、絵を描き始め、ストーリーも「頭の中からスラスラと生まれてきた」という。

 そのストーリーのはじまりは、こうだ。

 「イラクにひとりの女の子がいました。
 女の子はせんそうで、父と兄を亡くしました。
 おとうさんがいない今は、がっこうにいけず、
 ともだちとも はなればなれになり、
 まだおさない 女の子の心は、かなしみでいっぱいでした。
 よるになるとばくだんがおちて、
 みんなにげるすがたや、たおれたちちと兄の手がつめたくなり、おかあさんがおいおいないているすがたが、
 おもいだされるのです」

 戦争で親兄弟を失った一人の少女が悲しみのどん底から立ち上がるきっかけとなったのは、いつもやさしく微笑んでくれるお月さまとの出会いと語らいだった−。

 「みてごらん。うちゅうにくらべたら
 きみたちの すんでるちきゅうは、あんなに
 ちいさいんだよ。そのなかのちいさいくにたちが
 あらそって、人が傷ついているんだ。
 それがほんとうに いいことなのか、わからないままにね……。
 お月さまもかなしそうでした」

 幼い子どもたちに戦争の悲惨さを、わかりやすい言葉で説いて聞かせようとする素朴で根源的な物語が、繰り広げられていく。

オモニの思い投影

 徐さんは戦争が際限なく繰り返され、また、復讐のために、武器を持って男たちが立ち上がるという悲劇が生まれていくのは、とても、胸が痛み、悲しいことだと顔を曇らす。

 「もちろん弱者が痛めつけられているのに、強者に服従し、見て見ぬふりをしたり、無関心を装ったり、だんまりを決め込むことはよくありません。でも、暴力の連鎖からは何も生まれないと思います」

 徐さんは幼いわが子たちが「ただ、テレビで戦争のニュースを見て、何も感じない人間になってほしくない」とキッパリ語る。「爆弾の下で犠牲になっている子どもたちの側に立って、彼らに心から同情し、彼らの心情を汲むことができる子どもになってほしい」と心から願ってやまない。

 「今の世界とそこに生きる自分、そして、横にいる他者に関心を寄せ、手をつないでいってほしい」という母の思いが、そこには投影されている。

人を愛する人間に

 今、娘たちは福島朝鮮初中級学校に通う。02年の拉致報道以来、感情的な北バッシングが日本列島を覆い尽くし、民族学校に通う子どもたちを卑劣で陰湿な排外主義が取り巻く。そんな中にあっても、徐さんは強く、また、深い愛情で子どもたちを包んできた。その心情は本書の、この言葉からも伺い知ることができる。

 「おぼえているかい? きみがママのおなかにいたときのこと……
 ママは、いわなかったかい?やさしくて、人を愛する、強いにんげんに
 なるんだよって。……」

 本書を通底するのは、声高に反ブッシュ、戦争反対を叫ぶのではなく、人間への深い愛と平和を希求する強い願いなのである。

 徐さんは、他者を思いやる気持ちは、12年間にわたる民族学校の寄宿舎生活から学んだと語る。

 「初級学校2年生から、朝大美術科を卒業して、母校・東北朝鮮初中高で美術教員を1年間勤める間、ずっと、寮生活でした。幼い頃、オモニに会いたくてたまらない時もあったが、先生や友だち、先輩たちが、ずっと見守ってくれました。だから、成長するにつれて、寂しいとか、悲しいとか思う暇もなかった。楽しかった思い出ばかりです」

 母になってこそ理解できた、子どもを手元から離してでも、民族教育を受けさせてくれた両親の忍耐と深い愛情。「夜寝る時、寄宿舎のベッドから空を見上げるとお月さまが出ていて、心の中でお話していました。そんな体験が、今回の本の中には生かされているのかもしれません」と語る。

 厳しい状況の下でも、民族の誇りを背負って力強く成長してほしいという思い。

 「目には見えない抑圧社会の中で、在日同胞は『言葉』『文化』『伝統』を学びながら、自らのアイデンティティを守り、その過酷な生を生き抜いてきた。そのことを忘れないでほしい」

 本書の誕生を心から喜んでくれた夫や娘の宗香亜ちゃん、里香ちゃん姉妹が「オンマ、本当に良かったね」と声をかけてくれたのが、一番うれしかったと、顔をほころばせた。(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2006.3.11]