top_rogo.gif (16396 bytes)

〈本の紹介〉 季刊「前夜」7号

 雑誌「前夜」7号が刊行された。今週のテーマは「国家の変貌」。しかし、その前に、今年2月死去された詩人・茨木のり子さんの鮮烈な詩が裏表紙に印刷されているのでそれを紹介してみよう。

 ひとびとは
 怒りの火薬をしめらせて
 はならない
 まことに自己の名において立つ日のために

 まるで、国家の侍女になったかのような情けない日本メディアの中にあって一人気を吐く雑誌「前夜」を励ますかのような茨木さんの詩の力強さ。誰にも、何にも寄りかからず凛とした生涯をまっとうした反骨詩人の言葉が、今月号全般をさらに引き締めたような感がある。

 巻頭特集「国家の変貌」が読み応え十分だ。

 「小さな政府」を掲げる新自由主義改革と、日本の軍事大国化や世界の治安国家化の流れは、どのように呼応しているのか。また、階級格差の拡大や宗教やナショナリズムの台頭、草の根排外主義などの跋扈。このような日本の危険な潮流を「宗教」と「資本」の二つの視座から鋭く分析しようとする試みである。

 メディアで連日繰り返された「構造改革」の大合唱。その動きと軌を一にして進められた有事法制の整備や自衛隊のイラク派兵、小泉首相の靖国神社公式参拝、憲法九条の改悪の動きなど、日本がグローバル・ガバナンスの一翼を軍事的に担うための準備が急ピッチで進められている。そして、これを補完するかのように、「日の丸」、「君が代」の強制や「心のノート」の導入、教育基本法の「改正」など、戦後の平和教育を否定し、ナショナリズムを強化する一連の措置が、教育現場や社会の隅々に浸透しつつある。こうした問題意識から企画された高橋哲哉・東大教授と阿満利麿・前明治大学教授との対談「国家と対峙する宗教は可能か」、萱野稔人氏(政治哲学専攻)と三宅芳夫氏(思想史専攻)との対談「グローバリズムと国家の変容」がおもしろい。

 さらにぜひ一読を勧めたいのは、映画「送還日記」の金東元監督のインタビューなどだ。(影書房、TEL 03・5907・6755)(粉)

[朝鮮新報 2006.4.24]