〈みんなの健康Q&A〉 浮腫(むくみ)(下)−「疾患編」 |
Q:前回は、日常生活でのむくみについていろいろお話をうかがいました。 A:今度は病的なむくみについて勉強しましょう。つまり、何らかの疾患による浮腫というわけです。 Q:たくさんの原因疾患があると以前に聞きました。 A:全身性のものから、局部的な異常まで、さまざまな原因で浮腫が起こります。毛細血管と間質の話を思い出してください。ひとつの疾患でも複数の機序が合わさって浮腫を生じることがあるので、ここでは原因疾患別に整理して説明しましょう。みなさんよくご存知なのは心臓や腎臓病だと思われますが、いかがですか。 Q:はい、すぐ頭に浮かぶのは心臓や腎臓が悪いのではないかということです。 A:尿を作る腎臓は体の水分調節に重要な役目をはたします。その異常のうち浮腫を示す代表的なものはネフローゼ症候群です。これは慢性糸球体腎炎、全身性エリテマトーデスをはじめとする自己免疫疾患、糖尿病性腎症などでみられる症候群で、尿に蛋白が大量にでており、血液中の蛋白が減少するために浮腫を生ずるというものです。このように血中蛋白質が減少して血液が薄まってしまうことを血漿の膠質浸透圧低下といい、このために水分が毛細血管から外に移動しやすくなるのです。小児が風邪などの感染症状のあとで急に浮腫を認めた場合は、急性糸球体腎炎が疑われます。 また、腎不全となって尿そのものが作られなくなってしまえば、当然のごとく体に水分がたまりむくみとなります。 Q:心臓が悪いと循環不全からむくみがくると教えてもらったことがあります。 A:心臓のポンプ機能が低下すると、血液循環が停滞するので、道路に車が渋滞してあふれるのと同じで、毛細血管の静水圧が上昇し、間質への水分移動をきたします。その代表的な疾患がうっ血性心不全と肺高血圧です。これらは浮腫だけでなく呼吸困難や喘息様症状を伴うので、日常生活に大きな支障をきたし、重症化すると生命にかかわります。 心臓弁膜症や心筋梗塞などの基礎疾患があって、心拍出量も有効循環血液量もともに低下する病態を総称してうっ血性心不全といいます。この場合、胸にも水がたまりやすくなります。一方、肺高血圧は原発性肺高血圧をはじめとして、慢性肺疾患や心疾患による二次性のもの、睡眠時無呼吸症候群と関連するもの、慢性血栓塞栓性肺高血圧などがあります。 Q:ほかの内臓疾患では何が有名ですか。 A:肝硬変で浮腫を認めることがあります。浮腫形成の機序は複雑で、うっ血、ナトリウム再吸収の増加、高度の低蛋白血症による血漿膠質浸透圧の低下などがからんでいます。心、腎および肝疾患による浮腫は通常全身性、左右対称性に表れます。 Q:それら以外に同じような浮腫をきたす疾患にはどのようなものがありますか。 A:首の前、のどの下側にある甲状腺というところから出るホルモンが少ない病気、すなわち甲状腺機能低下症では皮膚が乾燥し、粗雑になり、押しても圧痕を残さないむくみがみられます。実は、その反対の甲状腺機能亢進症でもまれに浮腫がみられることがあるのでちょっとややこしいです。 そのほかには、薬剤の副作用による浮腫もあります。尿を作りだすのを助ける利尿剤のためにかえってむくんでしまうということもあります。すべての疾患を除外したうえで、なお原因不明の浮腫があった場合、特発性浮腫と呼びます。これは女性に多く、毛細血管壁から水分がしみ出しやすくなるのが病因のひとつであろうといわれています。また、高齢者で寝たきりになり衰弱した場合や、癌などで極端に栄養状態が悪くなると浮腫が生じます。 Q:局部的あるいは左右非対称性にむくむのはどのような場合ですか。 A:その部位の静脈系かリンパ管のうっ滞ないしは炎症が原因です。代表的な疾患は、深部静脈血栓症、アレルギー性浮腫、癌を含めた腫瘍性疾患、皮下結合組織の感染炎症などです。要するに、浮腫がみられる場所自体に何らかの障害がある場合です。 Q:治療については、原因疾患をきちんと調べて、それに対処するというのが原則ですね。 A:その通りです。治療は強心剤、利尿剤、蛋白尿改善剤および食事療法、局部処置などが主体となります。 最後に、みなさんによく理解していただきたいことがあります。浮腫自体は肺水腫といって肺にも水があふれる状態を伴わないかぎり、直接生命を脅かさず緊急治療を必要としません。だから、なにがなんでも利尿剤を至急使わなければならないという状態では必ずしもありません。むしろ浮腫は隠れていた疾患を発見できる手がかりとなるので、副作用のことも考慮すると、あわてて利尿剤を投与して浮腫をとることが診断や病状改善に不利な状況をもたらすことがあります。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2006.4.27] |