「朝鮮名峰への旅」(20) 雷鳴響く天池、カルデラ壁つたう雨水、みるみる上昇していく湖面 |
今の季節、関東地方では梅雨の真っ盛りである。うっとうしくじめじめした日々が続く。長年付き合って慣れているとはいうものの、夏の照りつける日差しが懐かしく、夏の訪れが待ち遠しい。 はるか北西方に位置する白頭山では、この季節、大陸からの高気圧に覆われることが多い。 どこまでも青い空がつづき、乾燥した風が、大地を心地よく吹き渡る。キバナシヤクナゲやキンバイソウの黄色い花が里から山へと駆け上り、次から次へと可憐な花を咲かせていく。花に誘われて、カラスアゲハやウスバシロチョウなどが、ひらひらと飛び交う。
7月半ばになると日本列島南側に停滞していた梅雨前線が、太平洋高気圧に押し上げられて、朝鮮半島を覆いはじめる。雷鳴が鳴り響き、バケツをひっくり返したようなどしゃぶりの雨が数日降りつづく。天池湖畔の山小屋にいると、稲光と、湖面を打つ雨の音が鳴り響く。じょうろのようになったカルデラ壁を、雨水が白い糸のように幾筋も垂れ下がる。天池湖面はみるみる上昇していく。この雨も数日でやみ、今度は太平洋高気圧に覆われて、入道雲が湧き昇る本格的な夏山が始まる。 天池から流れ出す水はどこに行くのだろうか。湖水からの流水口は松花江一本である。あとは伏流水となって、白頭山の山腹から流れ出す。鴨緑江や豆満江も山腹からの一適が源頭で、それが大河となって流れていく。鯉明水も崖の中腹から吹き出して滝となる。 三池淵は、白頭山噴火の玄武岩の溶岩台地にできた池らしい。玄武岩の固い岩盤の上に浮石が風に飛ばされて2〜7メートルの厚さにたまり、凸凹の地形となった。そこに伏流水が流れ込み、大小20数個の池ができた。中でも大きな3つの池は、仲の良い兄弟のように並んでいるところから、三池淵と呼ばれている。不思議なのは、流れ込む所も、流れ出す所も人目にふれない所にある。夏の間は水面が上昇し、冬期に下がる。年間を通して約70センチの変化があり、絶えず水が増えたり減ったりしている。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2006.6.30] |