〈本の紹介〉 「ルポ 改憲潮流」 |
露骨な「米国化」の動き 2001年の「9.11」事件当時、ワシントン特派員をしていたある記者から次のような話を聞いたことがある。「『9.11』以前から当局によって合法的に盗聴が行われていたのは知っていたが、インターネットのメールの内容までもが日常的に監視、把握されていることには驚いた」。 「9.11」以後の、「テロとの戦い」という美名を最大限に使った当時の出来事ならさもありなんと思う。が、それ以前の話だけに、自由と民主主義とを口にし、ある時は(イラクのように)大義に掲げて一国を転覆させることもためらわない米国とは、実はそれらとは縁遠い「国家による人民統治」を世界のどの国よりも露骨なまでに進めてきた国家なのだということに気づかされた次第だ。 目を日本社会に向けてみればどうだろうか。「住民基本台帳ネットワーク」や「盗聴法」「国歌、国旗法」、さらには今国会で先送りにはなったものの「共謀罪」や「教育基本法改正案」など、市民の行動を縛り監視し基本的人権をないがしろにしようとする、いわば「米国化」が着実に進められている。とともに自衛隊の海外派兵を実現、在日米軍との統合軍化が期限を切って本格始動を始めた。 そして、その集約点として改憲―単なる字句の修正に止まらない国家による市民権利の侵害、統制を前提にした、すべてに国家が優先する―の動きが露骨になっている。自民、民主の与野党案、マスコミ陣営からの試案(読売新聞)、財界、学者たちからの提言と、今や既定路線であるかのように映る。 本書は、そうした「改憲の潮流」を政治、経済、軍事など多方面の視点から丹念に追いながら、今は息を潜めているその本質がどういうものなのか、「憲法は国家を縛る」という立憲主義の本来の立場と照らし合わせ検証し、「いま、この国の底流で何が起こっているのか、私たちは何をさせられようとしているのか」(筆者「はじめに」)を知らしめようとまとめられたものである。 在日朝鮮人はもとより、定住外国人に対する配慮など、これっぽっちもないことに今さら驚きはしない(過去の清算すらしていない)が、それにしてもこの国はいったいどこに向かおうとしているのかと、事実を知れば知るほど暗澹たる気持ちになってしまう。筆者既刊の「安心のファシズム」と合わせて読めば、「今の日本」がさらに理解しやすい。 本書は「超監視社会は誰のため」「立憲主義が危ない」「財界の意思と加害の記憶」「新自由主義と靖国の接点」「国民投票法案に見る権力の本能」「新憲法への奔流とジャーナリズム」「アメリカ世界戦略の一部としての日本『自衛軍』」からなり「自民党新憲法草案と日本国憲法」が資料として付記されている。(斎藤貴男著、岩波書店、TEL 03・5210・4000)(梁明哲、ジャーナリスト) [朝鮮新報 2006.7.3] |